甘い夜更け。朝を憎んだ。
自分のクラスの教室に戻ると、もう授業が始まりそうだっていうのに、
後ろの席の女子に肩を叩かれた。

「蜜くん」

「ん?なぁに」

小首を傾げて見せると、女子は少し恥ずかしそうに視線を逸らす。

こんな光景を見れば男子達は「朝之(あさの)がまたやってる」なんて冷やかしてくるけれど、
俺自身が女子のこんな反応にいつもいつも優越感を抱いているわけじゃない。

人並みに傷つくことだってある。
女子達のこの反応に悪意があるわけではない。
むしろ好意的だと受け取っていいんだろうけれど、それって「対等」じゃないってことだ。

視線すら合わせてもらえない。
俺の存在は彼女達にとってもはや神格化されてしまったもので、
自分達が同じ目線で言葉を交わしてはいけないものだと思い込んでいる。

初めから対等なクラスメイトとして、交友関係を築くことを遮断されてしまっているみたいな。

だから俺はできるだけ意識してクズになった。

夢も希望も無い俺にとって、どれだけ神格化されようと、一枚隔てられた暗幕を開け放ってしまえばただのクズ。

彼女達が抱いていた憧れも敬愛も全てが崩れ去る。
そのうちに何かがどうにかなって、俺と彼女達の間に立ち塞がる壁すらも崩れ去るのではないか。

なんて思ったこともあるけれど、そうはならなかった。
クズであればあるほど、俺がつけた傷すらも勲章のように扱われたし、
どうにかして俺を好きにできる権利を争奪しあっているみたいだった。

クズを心がけて二年、三年…。

どうせ「人間」でいられないのなら、クズにまで堕ちた自己犠牲にすら虚しくなって、
考えるのすらやめた。

俺にはなんにも無い。
誰かと心を通わせた痛みも、誰かが心から俺を愛した証拠も。

この小さな箱の中で誰よりもくだらなくてダサい存在だった。
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