甘い夜更け。朝を憎んだ。
「ねぇ。あの子ほんとになんなの」

「どの子」

「二年の!」

「あぁ、佐藤アマイね」

「変な名前」

「可愛いじゃん。似合ってるよ」

「はぁ?」

「うーそ。きみのほうが可愛くて甘いよね?」

ペロッとくちびるの端を舐める。
名前をよく知らない女子はギュッときつく俺にしがみついた。

「最近蜜くんが全然遊んでくんないってみんな怒ってるよ」

「ごめんね。体育祭とかで忙しかったしさ。もうすぐ文化祭もあるしね」

来栖と話したあの日から、俺の生活態度に大きな変化があったわけじゃない。
むしろ悪化していた。

あれほど夜乃とばりのことで詰め寄った来栖は、
どんどん堕ちていく俺にようやく諦めてくれたのか変に突っかかってくることはなくなった。

「その″佐藤アマイ″とは仲良くしてるみたいじゃん」

「やきもち?」

「全員そーだよ。にわかのクセに」

「あはは。推しの文化みたいだね」

「大差ないよ」

「じゃあオタクと遊んであげる報酬でも貰っちゃおうかな」

「報酬?どうやって?蜜くんがそんなの欲しがるなんてめずらしーね」

「珍しい?いつも欲しがってんのに?」

「えー、なに?」

「きみのカラダ全部だよ」

我ながらキショい。

けれど女子は今までにないくらいに喜んだ。

相変わらずくだらない世界。
そんなものにはもう何も意味なんかないと気づいたはずなのに。

来栖に言われた通り。
どう足掻いたって「本物」にしか感情は動かない。
心が壊れてくれない。

だったらこんなくだらないこともやめて、自分が壊れてしまう前に全部、壊してしまえばいい。

…もうとっくに壊れちゃってんだろーけど。
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