マフィアの弾丸





 当初、この人たちと関わり合うつもりは、全く微塵(みじん)も、これっぽっちも
 想定していなかったのだが、…。




 その頃すこし、肌が弱っていた私を、モノ珍しく思ったのだろう、
 シルバーブルーの髪の彼が、
 なぜか。



 ある時から私の意志関係なく、私専門の皮膚科主治医になる運び。となってしまったのである。




 いったい何がきっかけか、
 それとも、合縁奇縁(あいえんきえん)と言われる類いのモノか。

 人生とは、私が思うよりも珍事(ちんじ)に溢れた
 世界なのかもしれない。




 ・・・・・いや。



 正直なところ、彼らと会ったばかりの記憶がうろ覚えで、

 どうやって話したかも、出逢ったのかも
 実は定かでないと言うのが、実際のオチなのだけれども。




 そんな事を口走った暁には、
 (特に)髪散らかし男のほうから悪態の弾丸を、躊躇なく
 浴びせられることだろうから。



 それは
 さすがに避けたい。




 ────…と、
 そこまで頭で独白していたところで。




 そう言えばお互いに、名前を知らず、これまで会っていたのではないか?という事態に、
 ハタ、と気付く。




 何だっけ、私この人たちに名前名乗ったっけ?
 この人たちは多分、自己紹介(自己主張の間違いである)をしてくれた、
 気はする。



 多分、
 それは覚えている。




 ただ、前言にも述べたとおり、当時はほんとうに
 もう関わり合うつもりなく、
 その時はその場を(かわ)すための挨拶として強制終了した、程度で。



 ゆえに彼らの情報など一切、頭に、インプットされていないのだ。




 ・・・・・だから、




 「アレ………………………。名前、何でしたっけ」


 「…」

 「は?」




 こうなる
 当然、こうなる。



 ひとりで脳内会話を繰り広げていたために、なんの脈略もなく
 勝手に話しが進んで、…こうなるんだ。




 「…いや、ごめんなさい。突拍子もなく」

 「…そうだな、突拍子もなさ過ぎてかるく驚いた」

 「……あの、えっと。すみませんできればツッコまないでもらえるとありがたいです」

 「別の穴にはおれがツッコんでやるけどな」

 「そう言えば、名前知らなかったな。って、」

 「今なら(しも)のチャック緩ぃから手加減して抱いてやんぞ」




 さっきから話の腰を折るような発言には、あまりに()()けで
 顔を引き攣らせながら、歩く生殖器か。
 なんて内心では毒を吐きつつ。




 「謹んでお断りします。他の色女とでもランデブーに出かけちゃって下さい」とわざと、
 話しを逸らせば。

 男は分かりきったような口調で「誰が「歩く生殖器」だバカヤロウ」と切り返して来た。


< 10 / 140 >

この作品をシェア

pagetop