マフィアの弾丸





 いや、
 ・・・・なんで私の考えてること分かるんだ、この人。




 そんな意図の含んだ目を、向けていたに違いない。




 若干、ギョッとした表情の私と視線がからみ合うとシルバーブルーの頭の彼は、
 不躾であるにもかかわらず。



 銀水晶のような、その美しい双眸で、私を見下し
 「テメぇーは判りやすいんだよ」と。一度だけむぎゅ、っと両頬を掴まれてしまった。




 「ぃっ…い、たぃ」

 「フッ。ブッサイクな面してんなぁ」

 「…じゃあ離してよ、」




 ペシペシ、無骨な指たちに挟まれた頬を助けるべく
 叩いてギブアップすれば割と
 すんなり、解放してくれたけれども。



 結構な力加減で掴まれたせいか、フェイスラインの頬骨あたりが、痛いし
 (ともかく)痛いわ。




 私、一応、女の子なんですけど?

 なぜいつも粗雑な扱いされるんだ、などなど心のなかではムッとする他ない。




 しかし、このまま堂々巡りではさすがに状況も動かないので


 さすさす、頬骨に手のひらを当てがってあげつつ「…名前、教えてもらっても良いですか」と再度、
 尋ねてみる事に。




 「リー・アーウェイだ」

 「え?」




 ・・・・・りー、
 あうぇい、・・・・away?

 え?なんて?
 私も日本人とは思っていなかったが。




 まさかの、がっつり外国籍の名前じゃないか。




 「…オ゛イ、二度も言わせんな。リー・アーウェイ、だ。わかったか?わかったな?覚えたな?」


 「え。いっ、いやちょちょちょっ、(そんな性急に覚えらんな、)待っ、…」

 「んで、コイツはウォン・カーフェイ」


 「……………はぁ、…はぁ?」




 あー、うぇい?かー、ふぇい?

 なんか『リムジン』とか、そーゆー高級な車種の呼称にありそうな変わった名だな。




 「……ぇ。なん、あの、なんて呼べば良いですか?」




 外国のお友だちを作ったこともなければ、海外に赴いたことすら、経験がないため
 どんな風に、呼ぶのが正解なんだろう?




 だって、絶対。

 この人たち私が想定している以上のお偉いさんである。事に
 違いないだろうし。




 ・・・・・・と言うか、
 えっ?


 今さらだけど良かったのか?

 こんな生意気な口聞いてて・・・・・。




 そうやって脳内が、勢いよく、
 ありったけの情報操作をしていくと理性が追いつき始め。




 自分の無知さかげんの対応の無礼さが、走馬灯のように
 一瞬にして、頭上を突っ走ったから。



 さすがの私も危惧の念が、足音を忍ばせてやって来ているように思う
 のはやむを得ない。




 しかし急にオドオドし出した、そんな態度の変動には、何を思ったのか。




 ぽすん────…。大きな手のひらが乗せられ、
 優しく髪を撫で下ろしながら「…今さら態度を急変されても困る。お前は、そのままでいい」と。



 思わず、口を噤んでしまうほどの真剣な声が降りかかったのには、
 齷齪(あくせく)しだした心も一旦、落ち着き払って安堵の息を、吐き出せた。


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