マフィアの弾丸





 『────あ?なんだどーした』




 歩調をゆっくり、進めていきながら、しだいに近付く自宅前にいる三人の姿。


 黒光りする高級車のナンバーを、視線でなぞらえた羅列のまま頭に叩き込んで。

 黒いスーツに身を包むいかにもな強面の彼らも視野に、取り入れつつ。

 右手には右耳に運んだ、勘の鋭いアーウェイさんの、警戒気味な声を持ちこむスマートフォンを当てる。




 なるだけ言葉を選べるように、脳内で聞きたい旨を噛み砕いて、咀嚼(そしゃく)して。

 「あの、…」とちいさく、接続詞で前置くと、



 「さっき、…母さんに連絡入れるまえに、構成員のひと寄越した。って話、……しました。よね」


 『あぁ、────それが?』

 「帰った、って…」

 『通達は入れてる。
 それがどうし、────』



 「────…あぁ伊万里。おかえり」



 ────…私に気付いた母さんが、かるく手を掲げたことで帰宅した私への挨拶とした。


 私も小さな声で、応答するべく「ただいま」と切り返す。

 同時にちらり、と視線を横にズラしてみるとスキンヘッドの彼らは、
 ────…一瞬だけ目の奥に、なにかをチラつかせ。



 ・・・・・けれどもほんの一瞬。

 一瞬の空気圧はすぐに消え失せて彼らは、どこか(うやうや)しく私に向き直ると
 頭を下げだしたのである。




 「────失礼。今お帰りでしたか」


 「……はい、どうも。
 あ、の……まだぁの。いる、」

 『あ゛?』

 「家にいたから、…ビックリして。すみません、こんな事で連絡して。大丈夫で」



 『────代われ』



 「え?」

 『いいから代われ』



 右手のスマートフォン越しからアーウェイさんの唸るような、有無を言わせないドスの利いた声音が静かに、轟き。

 それが己に向けてじゃなくても、さすがに怖気づくな。などと胸内で畏怖しながらも、
 言われたとおり二人のうちの一人に、スマホを差し出した。



 「失礼、お借り致します」

 「あ、あぃぇ。はい、」


< 111 / 140 >

この作品をシェア

pagetop