マフィアの弾丸





 そうして、すこし、冷静を取り戻せば狭まっていた視野が次第にひろがり、落ち着きを飼い慣らし。

 その落ち着きで、ふと感じる、こちらに突き刺さってくるような視線と、気配。



 そちらにコチラも視線を移していけば、電話している男とはべつの、もう一方の
 黒服の男性が凝視するように私のことを見つめていて。



 現状、アーウェイさんと電話している彼よりは、歳のほどは上の、
 『壮年の男性』と言う表現が、いちばんしっくりくる。


 スキンヘッドの様相でありながらどこか下手(しもて)に感じとれる
 所作と立ち居振る舞い。




 (……このひとのほうが、
 年嵩(としかさ)に見えるのに。いや…考えすぎ、か)




 悪意があれば何となしに
 直感でわかるものだけれど、この男性からは悪意と言うよりは、




 (……怪訝?に近い気が、)



 一旦、目を宙に泳がせて。

 黙考し、そう独断した私はもう一度チラ、とその男を見遣るべく
 双眼をグルり、動かした────…、




 その────…矢先だ。




 (…………っ、



 …………………………え、)




 ────、ふと、凝視してくる彼にだけ視線を固定しようとしたのに
 それは失敗に終わる。


< 113 / 140 >

この作品をシェア

pagetop