マフィアの弾丸





 ────…数秒の沈黙。

 傾ける通話先の主に、全神経をゆだねてすこし、固唾(かたず)を呑みながらも答えを待つ。


 しかし、こちらの神妙さとは裏腹に、数分も経たずして得た回答は『は?』といった
 心底、不審げ極まりない疑問符で。




 『なに出し抜けに。秘書なんかいねーよ』


 「…………ぁっ。そぅ、で」

 『第一、アイツ相手にまともに秘書が務まる人間が
 そうそういねーンだよ。
 オンナじゃ仕事にならねぇ、輩はカーフにビビってしょんべん垂れる。無難に機能した試しが一個もねー』



 「…いや、
 …そこまでは聞いてません」



 しょんべん垂らしたとか、要らない情報を織り込んでくるあたり、相当
 側近の立場としては、苦労してきたんだろうけど、



 ・・・・・なんて、


 内心では彼のことを合掌しつつ始まりそうな、アーウェイさんの無駄口にはバッサリ。
 断りを入れてハナシの中断。



 それにはスマホ越しの彼からの、
 『ンだよ丁重に教えてやってんダローが真面目に聞けや』というお叱りを
 いつもの通り。

 頂戴したのだが、




 それは────…ともかく、として。



 "あの彼女"がカーフェイさんの側近でもなく彼らの
 知り合い。…という感じでもなさそうである事には
 疑問解明したので、

 ひとまず、それだけを聞いてみたかった事だけに「ありがとうございました」と。




 謝意で締めくくろうとした、




 ・・・・・・ら、




 『────…オイ、』


 「はっ、?ぃ」

 『……やっぱナンかあったンだろ』



 「……………

 ぃや、」




 ・・・・・いつもの(じゃ)れつくような、声じゃない、

 本意気の、
 すべてを訝しむような低い声音。




 「………………、なんにも。ありません。…ちょっと考えちゃった。だけです」

 『ナニを、』



 「秘書さんとか、許嫁さんとか、もしいるんなら私は、………
 私といる。のは、間違って、るんじゃないかな、って。ただ、
 それだけです」


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