マフィアの弾丸
そうやって、『名前』という枠で、枠をつくれば
そこそこに安堵はする。
知らないひとなのに、知っている人かのように思えて、ひとは安心するんだ。
こうした『名称』という託つけで判別していくのが
きっと、大人の性分なのだろうけど。
「……私、は…要らない。ナ」
そんなふうに明確さとか、不明瞭さとか、生きていくなかで疑ってかからなきゃ
危ないこともあるのは至極、瞭然。
ただ、ソレ以外で。
私は『恋人』だとか、『夫婦』だとか、そんなココロ乱すような関係性は、生涯不要。
要らない、
・・・・・・要らないんだ、そんなモノ。
今が、精一杯だから。
これ以上の変化とか、変革とか、受容できるほど大人でもない。
優しくされるたびに、勘違いしそうになる、この感情も、
距離が近くなるたびにむやみやたら、拍動してしまう高揚感も。
驕ってはいけない、
そう歯止めをかけて────…、己を律するしかない、と。
・・・・・でなければ、
自分でも無意識に、その関係性の『名前』を欲してしまいそうで。
蓄積していく厄介な感情。
育てちゃいけない、
このまま。
このままの関係が、いちばん────…、
「────…万里?、伊万里
終わった?」
・・・・・・っぁ、。
家の玄関から、ひょこりと顔だけ覗かせた母さんの呼ぶ声に
つい、と目を向け、
「あっ、はい!もう入る」と慌ただしく返事をかえしながら、急いで門扉を閉めると歩き慣れた石畳を
いつもの歩調で踏みしめていく。
・・・・冬のせいか。
暗くなるのは早く、辺りはすっかり暗澹につつまれていた。
寒気が、私を追い立てるように横殴りに吹きつけ、
髪の毛が顔に張りつくのを、
指で払い退けながら私は玄関の戸を潜る。
パタン、────、とすこし重々しげな心もちで閉めた玄関扉。
同時に感じる、キッチンと廊下の隔たりの隙間から流れてくるストーブと暖房の暖気は、
どことなく、じわりと温かくて、
「…ご飯、今日は豚汁よ」
「………ぅん。豚汁すき」
そう、脱力したように返した私に、母さんはなにもワケを問わず、
「手、洗ってらっしゃいな」といつもの
優しい笑顔で頭を撫でてくれたのだった────…。