マフィアの弾丸





 それから数分も経たずして、颯爽とこちらに歩んできた彼女の手には、細身の体格に見合わない、ガッツリ麺のはいったラーメンの(どんぶり)と、

 …なぜだか漬け物。という、ミスマッチな組み合わせ。




 「…ぅわ、すご、」


 「何?女が昼からラーメンって、引いてる?」

 「ぇっ?いまの声聞こえてました?すみませんっ」


 「いいよ別に」


 「いや、あの、引いてるんじゃなくてカッコいいって思った上での咄嗟のココロの言葉、で」

 「カッコいいの?あたしが」

 「はい」



 即答した私に、丼と漬け物を乗せたお盆を卓上に置いて着席した伊周(これちか)さんは、
 腰まである長い髪をもう一度、括りなおしながらクスクスと綺麗に笑って、

 「ほら、食べよう。…いただきます」と号令をかけたので、私もそれに倣い
 「い、いただきます」と呟くとお弁当に箸をつけた。



 ────…絹糸のように細くて、繊細そうで、すこし茶色っ気のある彼女の長い髪はいつも、ひとつ括りに纏められており、艶やかだ。

 肌はふんわりとしたような、柔らかな白色味で、すこし、そばかすがあるものの
 それは、もともとの肌質や血縁上の所以とも言える。


 きれいにカーブを描いた雀茶(すずめちゃ)色の眉と、頬に影をつくるほどの睫毛。

 日本人の茶色目と、微かに濁ったような西洋寄りのグリーンが混同した、二重目蓋の混同色アイ。



 西洋のドール人形のような風貌の伊周さんは、
 その見た目どおりのハーフである。


 口許の黒子がなんとも、
 色っぽくて。




 このホテルの従業員のなかには、海外から日本に働きに出ているひとたちも、実はたくさんいて。

 その大半が、私と同年代くらいの子たちだったりするのだけど、


 カンボジア圏だったり、インドだったり、国籍は様々だ。



 そのなかでも伊周さんは、抜きん出た風貌で一目置かれている存在、
 …でもあるとおもう。



 今も、・・・・・・ほら、

 ツイ、と視線を周囲に向ければ多種多様な視線の数々が刺さる刺さる。


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