マフィアの弾丸
・・・・・・なんだか、哲学。
なんて感嘆していた私の心情すら汲み取ったのか。
彼女は柔らかな目元を、さらに緩めて「海屋さん正直ね。顔にぜんぶ出てる」と
また、くすくす笑って指摘されたので、
私もつい、恥ずかしくなって
肩を竦めてしまった。
「…なんか、その、仕事とプライベートと、どっちも疲れるなって時が、たまにあって」
「疲れる?」
「…ぁっはぃ。仕事はもちろん、やるべき事をするのは当たり前なんですけど、自宅に帰っても、親や家族の手伝いとかしなきゃいけなくって。自分が行きたい道すらじっくり、考える時間がなかったり、わからなかったり。趣味をしていても、なんだか疲れ切っちゃうとか」
…常に、何かしていないといけないって観念に囚われてしまうなって。────そう、ぽそり呟くように話しだしてしまえば、
段々と自分の意識とは裏腹に、閉じ込めていた苦悶の靄も溢れだしてって、
「……無い、ですか?そういう、感じのこと」
完全に人生の悩み相談モードになってる。
自覚はしているものの、次から次へと吐き出してしまえば口をついて出てしまうマイナスの言葉が止められず。
唇を引き締め、
とうとうお弁当のおかずを口に運ぶ動作が
億劫になってきた頃合いに────「…まぁ、たしかに」と。
至極、おだやかな彼女の声音がやけに、鼓膜の奥まで浸透してきた。
「…すみません、贅沢ですよね。伊周さんたちからしたら日本人の悩みって、」
「そう?悩みは人それぞれだし、大小つけることの方が変わってると思うけどな」
「…、え、大小?」
「日本のひとって、他者と比べたがるじゃない。あたしは母さんがアメリカ籍で父さんが日本人なんだけど、……。
よく、……あ、昔のはなしね?どこどこの子がこんな感じで、とか、優秀だ、とか。とかく誰かと比較したがってたものよ」
「へぇ、……同じ。ですね」
「でしょうね。まぁ、だからこそ『何かしてないとダメ』って自分を追い込むのよね。仕方がない事なんだけど」
その時代を生きたひとたちは、そうした環境で生きてきたからそんな性格も身についちゃうのよ。と。
どこか清々しく、フラットに言ってのけるものだから、私は呆気にとられるように
目をぱちくり、瞬かせていた。