マフィアの弾丸





 ────…そして例のごとく、そんな私たちの仲裁にはいるのが、




 「…もう良い。離してやれ」

 「────チッ」




 低くて、どこか有無を言わせない、カーフェイさんの制止の声に、


 渾身の舌打ちを響かせたシルバーブルーの男が、くゆった自身の髪をガシガシ、引っ掻きながら

 いわれた通り離れていくと、




 「…甘ぇんだよお前も、コイツに。寝てるときどうせ引っ掻いちまうんだからわざわざ、おれがあの手この手で(じか)に、塗りたくってやるって言ってんのに」




 ・・・・・いや、




 「…「あの手この手って」、」

 「知りてぇか?」

 「いや結構」

 「即答すんなや」




 一矢(いっし)報いるような私の切り返しにはさすがの彼も、
 ピキリっ。と額に、青筋を立てた様子だったが。




 すんでのところで思いとどまったのか、眼前で殊更(ことさら)盛大に、ため息を放ってドカリ、と。




 (わざわざ)私の隣りに場所移動し、腰を下ろしたシルバーブルー頭の男(────もう、そう呼ぶことにする)は、

 背面のシートに背中を預け、長い脚を(絶対、わざとだ)こちらに、
 寄せつけるようにして組んで、煙草を吹かしだすもんだから、



 私も嫌がらせで、「…煙草ヤメテ臭い。喘息(ぜんそく)」と嫌味をブッ刺すことだけは忘れない。




 「うるせ。ぺたんこが。おれに指図すんな」なんて、いつものごとく
 小言は吐くものの。



 本当に、私に害成すことは彼は絶対、しないと分かっているので、大人しく
 持参したお昼ご飯を開封することにした。




 ・・・・・現に、隣の男は直ぐに、口に挟んでいた煙草を
 吸い殻に仕舞ってくれたし、




 (…と言うか。直ぐ、鎮火するんなら買うだけもったいない、と思わない事もない。けど、ヘビースモーカーらしいし)




 ・・・・ちょっとだけ、
 申し訳なく思わない事もない、ほんのちょっと。



 そう、ほんの一握りぐらいは、
 申し訳なく、・・・・




 「チッ。ほんっっっと女の風上にも置けねぇ、なンだよその乳は。萎えんだろーが男のブツが。もっと豊胸しようとか思わねェのか」


 「…」


 「ってかお前。いい加減、ブラジャー買えよブラジャー。25にもなって、スポーツブラとか胸がかわいそうだろ。だから貧乳なんじゃねーか」

 「っ失礼な、………。ぶ、ブラジャーはに、苦手。なの窮屈で」

 「ハァあ?お前、……マジで女か?性別詐称してんじゃねぇだろーな?胸のカタチ崩れるとか、フィットしねェとか色々あんだろ問題が」


 「……別に、無い。貧乳で困ったことないし」


 「オイ。いまの発言、世の中の男女引っくるめて敵に回してんぞ。ブラしてないとか、女の沽券(こけん)にかかわるから今すぐ、前言撤回しやがれ」


 「……常々おもうけど、そもそもなんで男のあなたが「女の沽券」を語るんですか」


< 13 / 140 >

この作品をシェア

pagetop