マフィアの弾丸





 身を委ねること数秒。

 チンッ、と響いた軽快な到着音に、身を滑り込ませるように
 廊下へとからだを投じた私は。


 駆け足でロッカールームへ赴き、
 自分のロッカーのまえに立つと鍵で手早く解錠させ扉を開いた────、




 (────…あぁ、あっ…!



 …………………………ッたぁ〜〜、……)




 脱力したように手に取った通帳。


 無事であることを確認するべく開いた中味もとくに、不審な点はなく

 ただ、ロッカーのなかに置いたままであったことを証明する。




 「はぁー…、よかっ、たァ」



 ほー…、と安堵の息が漏れ肩の力も抜けていく。



 そぅっともう一度、鞄のなかに仕舞い込む工程を、自分でも忘れないために
 認識して、確認して。

 そしてようやく、ロッカーの扉を閉じた。




 ・・・・やっぱ、慣れないことはするものじゃなかったな。



 鍵でロッカーを閉め、フロアを出ながらそんなことを考える。

 いつも通りや、日常のリズムの工程が、ほんの少しの狂いでリスクにつながる事もある。と。



 ・・・・・気をつけなきゃ、



 着いたままだったエレベーター内に乗り込み。

 階下に移動する箱の振動に半身を任せながら、落ち着かなかった動悸の感覚も実感して。



 平常心が保てず、若干、余裕のない自分を、もう大丈夫だ、と(なしな)めることでとりあえずは、良しとする事にした。



 そうしていれば、────…そんな空気の重たさを、打ち破るように
 ようやく動きを止めたエレベーター。

 すぐにその運搬の箱のなかを開放し、新鮮な空気を取り込み始めたので
 私もゆっくりと、足を動かしていく。


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