マフィアの弾丸





 ふと、視線を向けた先は私も帰り道につかう大通り。



 ホテルの裏口から歩き抜け、
 ちょうど右折し駅の方面まで向かおうとした矢先だ。

 なんの気なしに、反対側のほうを見てみれば、────そう言えば
 黒塗りの高級車が数台、路上駐車されていたんだった。と回想し。



 でも、だからと言って私の知る彼らでは無いかもしれなければ、知って
 どうこうというワケも無い。


 もしくは、別の知りもしない大物さんかもしれないので

 特に気にも留めず、そのまま帰り道を突き進もう、と歩みを早めた時だった────。




 「……………………っぇ、」




 尻目に動かした視野が捉えたのは、────私がよく見知る女性の、凛とした後ろ姿。


 茶色っ気のある、艶々な長い髪がとても優美に、寒気に靡き踊っていて、




 (………………伊周(これちか)、さん?)




 咄嗟に歩みを止め、おもわず半歩下がってしまった。



 ドクドク、と。

 嫌なほうに心臓が響く。




 煉瓦(れんが)と造花の影に身を寄せ、顔だけそうっと車のあるほうを覗くそんな自分のやましさと言ったら、

 ほんとに、嫌気が差すばかりである。



 だけど咄嗟の局面。

 人間って自分が思ってるよりも姑息で、つくづく真っ正面を切れない生き物なのだ、と。


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