マフィアの弾丸





 横に長く、黒くて艶のあるリムジンの運転席から降りてきたのは


 ────やけに強面の、黒味のサングラスをかけた丸坊主の男性。



 その、ハイグレードな黒スーツ姿の恰幅だけでは、危うく

 警察沙汰にでも発展していそうな、そんな様相ではある。




 しかし、真反対の助手席から降車した男も類同した身なりであったため、

 皆目(かいもく)見当違いだろう。と招かれざる出席客たちは、(たちま)ち小首を傾げるほかない。




 ・・・・・彼らは恐らく、
 このリムジンの乗車主である者たち専用の、ドアマン。




 SPさながらの挙措(きょそ)、なめらかな身ごなし。



 厳重な目配りと、沈着冷静な判断力。




 それほどまでに脚光を浴びる偉人を、

 招待しているのだという実情に、再び、来場者たちも
 息を吹きかえしたように、熱を取り戻しはじめた。




 運転席から降車した丸坊主の男性が、サングラス越しにひと通り、
 視線を配って周囲の確認を終えると。



 助手席から降りたほうの男へと目配せで首肯する。




 そして首肯を受けたその男は、

 どこか、(うやうや)しく上体を半分ほど屈め、
 後部座席のスモーク硝子(ガラス)を二度ほど、ノックするとそれを合図に、



 後部席を開扉(かいひ)した。




 ────カツン、と。




 男ものの踵が降り立つ音が、また彼らの喧騒を徹頭徹尾(てっとうてつび)、黙らせる。



 それはまるで
 勝手な熱を吹く弊風(へいふう)を、掃蕩(そうとう)させるかのごとく。




 ────降車したのは、ふたりの男であった。




 それも、慇懃(いんぎん)に腰を折っている黒スーツの彼らよりは、いくらか
 歳若いと言えるだろう長身の、美丈夫の男が、



 ふたり。




 双方とも。

 その美貌は、人々が目にしてきた『美しいもの』とは
 桁違いの類いのものであった。


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