マフィアの弾丸
"あの女性"について邪推する不届き不人情な富豪家など。
この会場に来場されているなかに
万に一つも、あり得ないのだからこそとても逸るの。
・・・・それほどまでに、わたくしにとって"彼女"は憧憬に匹敵するお方。
何より、
・・・・・"彼の方々"と対等に渡り合えてらっしゃる
その人望と、人脈。
到底、羨ましい。
わたくしだって"彼の方々"に釣り合い取れるべく、どれだけお父様のお仕事に
勤仕してきたか。
経済の先を見据える活眼、日本金融を支えて来られたその栄耀に、見合うアシストは時に、
唐変木な方と交渉する場面もあれば、酷評を浴びせられることや
反駁しなければならない
苦しい時期もあった。
────それでも、歯を食いしばり血の滲むような努力で"彼女"に近づけるように、
真摯に、取り組んできたの。
「────間もなく会場です、」
紙燭の設えされた隠し通路を抜け道に、
息を上げながら歩みを進めていたわたくしを案じるかのごとく。
竹倉の、
張りのある端的な指示が鼓膜を揺すった。
ぐっと力を入れなおした眼で相槌をしめすと、
再び
会場の賑わいと煌びやかなシャンデリアのライトアップが
視界に飛び込んできたのには一瞬、怯んでしまい
目を瞑る────…、
「ッッ、」
しかし。
開けた双眸に映るものは、非情な現実。
会場の前方にはすでに、────見知る壮美な"女性"が人々の輪の中心で、
真っ直ぐに姿勢を保った背筋でじっと、淑やかに佇んでいらっしゃった。
その姿を目の当たりにするのは、
張り裂けそうなほど痛い。
その傍らに、
────…"彼の方々"を同伴にされて。
「っっ、ク、」
せっかく紅を差した唇が、悔しさのあまり歪んで下唇を噛んでしまう。
口腔に滲んだ紅は、唇を彩る色味にはとても最適なコスメであるのに、
加工されたような味が舌の上に広がりどこまでも、欠陥品を思わせる。
まるで、今のわたくしのようだ。と。
身綺麗に外面や、知識や教養を着飾っていても、
中味は大した値打ちなどないのだと。
知らしめられているような、
・・・・嗚呼、またわたくしは。
"彼女"に・・・・、負けてしまったの?