マフィアの弾丸





 落ち窪んだ目に映りこむ三者の、洗練された品格、所作、
 清廉な美貌。


 長年、連れ添っておられるかのような"彼《あ》の方々"と"彼女"の、
 独特な空気感。




 ・・・・・悔しくて、
 不粋にも歯噛みをしてしまった。



 『国家賓客(ひんきゃく)』とは────もとい、今回の場合は特別な認可が下り、

 規制されずに
 出席することが叶った数すくない好機であったが。



 通常、招待を受けていない二流・三流の財閥家や成金、

 芸能関係者などの人間が
 やすやすと入場を許諾されるのはまず、有り(てい)に言っても
 皆無。



 しかし今や、この日本金融にとどまらずあらゆる機関、経済界や、
 海外でも名を挙げられている"彼の方々"には「今後ともご贔屓(ひいき)に」と。どうやら国は、
 恩を売りたかったのだそう。



 こうして、手広く展開されておられる経営手腕の持ち主の"彼ら"に、
 胡麻擂(ごます)りさながら(────の半ば、強引に)お願い出たようだけれど、




 ・・・・・それにしたって、
 なんて美丈夫なの。



 竹倉の、「お嬢様、お手を」の催促に、差し出された手の平を掴むと
 足を引っ掛けないよう、もう片手はドレスの裾を摘んで
 歩みを進め。


 わたくしは目にいっぱいに映し込む"御二方"を目指して
 人集(ひとだか)りの隙間を縫い"彼"に、"彼の方"に、近づいていく。



 来賓のなかには
 VIPや政財界の重鎮(じゅうちん)、各国の大使館までもが
 わざわざ来日されていて。

 その目線は
 決まって"彼の方々"と、"彼女"がいる前方へと向けられている。



 一目置かれた距離を、

 上品に保って人垣の割れたホール会場の中心にいらっしゃる"彼の方"は、何やら
 主宰(しゅさい)と一言、二言交わしているご様子。




 艶やかな紺青(グレーブラック)の髪はバックに、(わか)つ前髪が片方だけ波をもたせ、

 それは
 隠れた右側面の面立ちがより、
 神秘的でミステリアスに"彼の方────カーフェイ様"を仕上げているようだった。


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