マフィアの弾丸
「────…カーフェイ様、今宵はお招きいただきまして誠にありがとうございます。父と母に代わりまして、今夜はわたくしがご挨拶に参りました。船岡ホールディングスのマネジメントを務めております、船岡 美希と申します」
遠いところ、わざわざ御足労いただきまして…。そう紡いだ社交辞令と
並行して。
ドレスの両裾を摘み、一礼しながら擡げた顎を引くと
"彼ら"とようやく、念願のご対面が成就した。
わたくしが会釈するのと同じに、横に控えていた竹倉も
胸に拳を当て、騎士の礼を慇懃に取っている。
・・・・・2年前以来の対顔。
その折は父上の影に隠れて、
拝顔すら手に余るものだったもの、
ほう、と見惚れてしまいそうになる、気の散漫を引き締めなおして
今度こそ
しきたりの通り巧妙に。
弁舌を振るうことに徹するために
わたくしはふたたび恭しく頭を垂れ、
眼力に、ちからを入れなおした。
────ウォン・カーフェイ。
彼は数年前、────…経営難におちいっていた世界有数の金融国家、
ゼロ・e・グレの一流ホテル業界を
ものの見事、数ヶ月で立て直された
第一人者であり、
現在はウォングループの代表でもあらせられる。
各国に、壮大な資産をも保有している。なんて風の噂で
聞き齧ったことは何度かあったけれども。
真の素性は、
誰ひとりとして存じ上げてはいない。
・・・・そればかりか、その身なりと風格から
どこか、危ぶまれる場所に身を据えているのでは?
・・・といった憶測も
井戸端会議の肴に挙がっていたりするのだけれど。
「────、あぁ。この間、締結を申し入れて来られた、」
「…っあ、……あっ、はい」
…しかし、淡々と受け応えされたのは、当のカーフェイ様ではなく。
彼の傍らに控えていた、藍鼠の髪房を、無造作に外跳ねさせた
────カーフェイ様の側近、
リー・アーウェイ様である。
無機質的で然り。
温度がどこか低下したような声調で、彼の代わりに、応対して下さったものだから
わたくしは慌てて、
「その節は大変、ご厚情をいただきまして。父からくれぐれも、と申しつかっております。本当にありがとうございました」
深々と。
低頭といっしょに謝辞も苦も無く述べるが、そしてカーフェイ様やアーウェイ様を盗み窺うことも、
決して忘れない。