マフィアの弾丸
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 ────…宵の闇がすこし、更けてきたころ。



 たった数分で一言、二言。

 ビジネス会話をかわし終えてしまうと、カーフェイ様は(────当のカーフェイ様は一度も、言葉を発されなかった)
 側近のアーウェイ様をともなって、
 日本の大使館のもとへと。


 足早に、
 わたくしの前から身を
 退(しりぞ)かれてしまったのである。




 ・・・・・その(かん)、一度たりとて
 カーフェイ様の目にわたくしは写されていない。

 ただ、アーウェイ様からの
 慇懃(いんぎん)なビジネス術の斡旋(あっせん)を拝聴していただけで・・・・・。



 「────いかが致しますか?お嬢様、」

 「構わなくてよ。お帰りの際にもう一度、()の方々にお近づきになれるよう、うまく取り計らってちょうだい」


 「畏まりました」



 侍従の竹倉(たけくら)に、あとの指示を口頭でつたえ彼が会場をでた気配を確認してのち、

 わたくしは計画を遂行するべく、"その瞬間"の機会が訪れるのを────…



 、待つことにした。



 最高級の品揃えでディナーテーブルを飾る、ブュッフェ形式の料理品から
 (あつもの)を口に吸いながら。

 大使館とお話しされている御二方に、
 神経を尖らせて・・・・・、




 ────「嗚呼、お美しい。ほんとうに。この世の造形とは思い難い方たちですわ」

 ────「それより聞きました?関子さん。日本の若手女優の皆さんは、必ず、カーフェイ様やアーウェイ様と御目通しが叶うらしいって噂」


 ────「えぇっ、うそぉ!それ本当?」

 ────「蝶子さん、それっていつものデマなんじゃなくって?」


 ────「それがねぇ〜、そうでもないみたいなの。アタクシも詳しくは知らないのよ?知らないのだけれど、とある筋の情報からだから、今度は確実よ」



 恐らく、招待客ではないであろう貴婦人方が、ひそひそと
 談笑に花を咲かせている
 その内容の旨が、


 この迎賓館(げいひんかん)に集う女性たちの、本願といったところであろう。




 ・・・・・・そう、かく言うわたくしも、
 そのなかの一人。


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