マフィアの弾丸





 ────…メルセデスを走らせて、そろそろ1時間が経つ、というころ。


 あの迎賓館(げいひんかん)からは、ずいぶん、距離のある場所に向かわれているらしい、



 ────(あるじ)を差し置いて。


 そのことに半ば、猜疑心(さいぎしん)に駆られてしまうのは致し方のないこと。



 わたくしたちのような由緒正しき一家は、
 常に、
 側近とSPはセットで張りついていてもらわなくてはならない。

 どんな危険があるかわからない、
 というのと、
 穏便にビジネスを回すためでもある
 からだわ。



 特に、カーフェイ様は、表社会ではホテル業界の最高峰・ウォングループの代表。

 そして裏社会では、その名を知らぬ者はいないと言わしめられるようなお方。




 そんな、偉大な()の方のお傍を、・・・・離れてしまうほどの一刻を争う事態だったというのかしら?



 怪訝に目を凝らし。

 疑わしく息を潜めていたわたくしに、
 隣りに座る竹倉の、簡潔に添えられた声がとどく。




 「そろそろ到着されるようです」




 PCを開きながら、いったい、何をどこまでハッキングしているのか。

 そんな瑣末(さまつ)ごとは、わたくしにとって知るところでは無いけれど、




 ────そこまで黙考して、回想した先刻の竹倉の言葉に、ふたたび邪念が押し寄せてきてしまう。



 ・・・・そう、たしか。

 迎賓館を退館する
 まえに、耳打ちされた・・・・・、その旨。


 そうよ。

 ちょうど、アーウェイ様に動きがあった折だわ。




 ────『お耳に入れていただきたい情報が一点。どうやら近頃、ウォン総代表が懇意にされておられる方がひとり、いらっしゃるようです。それも…、



 ────一般の方が』


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