マフィアの弾丸
口許に親指の爪をもっていきながら、わたくしは奥歯を、食い縛る。
・・・・・『一般の方』、と竹倉は言った。
数台先まえで潤滑に走行する、アーウェイ様を乗せたリムジンのテールランプを追いながらも、
わたくしはにわかに信じがたい情報に、かりかり、と爪を噛んでイラ立ちを抑える。
そんな情報は、今までに、一度たりとて挙がってこなかったものだから、てっきり茉美子様が本命なのだと。
────高を、括っていた。
(…まさか他に女性がいたなんて、)
そんなハズ、・・・・いいえ、待って。
彼の方々が来日されたのはつい最近のことよ?
いつ、どこで、
一般の女性と懇意になるというの?
「…ねぇ、来日されたのって最近のハナシでしょう?デマではなくて?その、『懇意にされている女性』、って」
「えぇごく数ヶ月前に来日されています。ただ極秘でしたので、こちらも情報を修得するのに時間がかかってしまいまして」
「そういうこと。…貴方でも、ハッキング技術が敵わない相手っているのね」
すこし、意趣返しのような言い回しで嘲ってみると竹倉は
大袈裟に肩を竦めてみせて、「それはお嬢様、野暮と言われるヤツですよ」なんて苦く笑みを溢した。