マフィアの弾丸
「この竹倉も、…長年ハッカーを生業にして来ましたが上には上が。その上には頂点が君臨するというモンです」
「────…とくに、ウォン総代表が飼っていらっしゃる【ヒョウ】は、我々からしたら厄介ことこの上ない」と。
息詰まりを、吐き捨てるように息巻いた隣りの侍従は。
奇妙にも、どこか切迫しているようであった。
・・・・・それはとても、珍しく。
PCに向けていた厳しい眼光が。
ちら、とわたくしに向けられたので、わたくしもつい、眉根を顰めてしまった。
彼はひとつ、コホン、と咳をこぼしてのち、
「無礼を承知で進言いたしますが。……お嬢様、」
「……何。かしら」
────ワントーン、低く。
落とされた竹倉の声音に、眉尻が、ひくり、と動く。
この場合の竹倉の威光ほど、身構えるものはない、と第六感が言っているわ。
これから紡ぐことが、例え、わたくしにとっては邪険にしてしまいたい件だとしても。
・・・・・止められずには、いられないの、。
目をほそめ、彼の眼光を切り捨てるように視線を、車窓の外へと移す。
そんなわたくしの常の態度には、溜め息をついて普段ならば流してくれるというのに、
・・・・・今宵は、平素とちがった。
「お嬢様、」
「なによ」
硬い声。
竹倉がなにを忠告したいのか解ってしまっているからこそ、・・・・イヤになる。
「彼らの背景には、よほどの卓逸したハッカーがいるとお見受け致します。…この意味、判りますね?」
「………………………、解らない」
「お嬢様、」
「ッッ解らない!────解らないわっ!!わかるワケがないでしょう!?!なに?!貴方はわたくしをどうさせたいのよ?!!」
煮え切らない応え方に、ふつふつと憤りがこみ上げて熱り立ったというのに。
そんなわたくしを、竹倉は涼しい顔で見下ろしてくる。
その、飄々とした態度が余計に、腸を煮え繰り返らせていることを、貴方はわかっているの?
自ずからは判然としない、そう見せかけてわたくしに自ら解らせようとする。
この男は、昔からこんなふうにわたくしを躾し、傍で仕えてきたただの船岡家の忠犬。
そう、・・・・・駄犬なのよ。
たかだか侍従ごときが、
・・・・わたくしの意向に楯突く
なんてもう、幾度目かしら?