マフィアの弾丸
やがて信号が青になると、彼女はふたたび律儀に、左右を確認して。
車が走行していないことを、注意しながら、ようやく横断歩道のコンクリートを
パタパタと。
かろやかに駆けだしていく。
すると、その質素(────わたくしが暇潰し程につまらない。と、異存をとなえた粗末)な公園の、中腹へと。
それはそれは、こちらが驚倒するほどに、一切の躊躇もなく彼女は歩きすすめて行かれ。
その少女の傍へ、別方向の入口から彼の方が常時のとおり、
上品な所作で、歩み寄って行かれるのが遠目に、窺えてしまった。
・・・・・依然、
お美しいアーウェイ様。
麗しいカーフェイ様の、
忠実たる僕。
地位も所業も何もかもが申し分のない、
そんな方々が・・・・なぜ?
(なぜ、………あの子を?)
無意識に、親指を口元にもって行きガリガリ、と爪を噛んでしまう。
そんなわたくしを、嗜める竹倉の「お嬢様、」という深い、労いの声でさえも煩わしい。などと下卑たことを思考してしまうなんて。
いよいよ、わたくし自身に余裕が無いことを己で知らしめられているようで、その自覚すらも腹立たしかった。
滑らかに輝くばかりの、藍鼠《シルバーブルー》色の髪。
すこし、吊り上がった目尻の奥には最高級の、純銀のような瞳がふたつ。
今宵の対面した折以上に冴えわたる美貌。
────…であった。
そうであった、のに…。
────「………ダぁ?……はな、……し、…ん、」
────「や、………かえ、…どくて…」
今、────わたくしのすこし先の目の前で拝見するアーウェイ様の印象は、
社交界での姿とは
まるで180度も、
違った────…