マフィアの弾丸





 ────社交界での()の方は、まさしく、"紳士(バトラー)の鑑"。



 子息・令嬢にかぎられず、上流の男性社会にまで一目置かれるその所作や礼儀作法、マナーでさえ。

 一流の箔が称号されている、気高きウォン王室一家の正式な御身内。




 ・・・・・たとえ、その背面では『殺し屋』『始末屋』としての異名があろうとも。


 それが事実とて、

 ・・・真実ともかぎらない。



 そんな────彼の方が。

 それであるからして、あのように砕けたアーウェイ様のお姿などわたくしは、にわかに信じ難かったの、




 「…っっ、」



 数メートル先の、寒々しい公園の、出入り口に。



 駆け寄った彼女に歩み寄られたアーウェイ様は、ひと言二言、言葉をかわされると
 なにかに気付かれたように腰を屈めて、その少女の顎をグイ、と持ち上げ

 美しいお顔をわずかに顰蹙(ひんしゅく)なさった。




 (……何を、話されておいでなの?)




 あまりに親身に。

 それも、互いに打ち解け合っておられるからであろう彼の方と彼女の、近しい距離感。




 ・・・・・わたくしは、あんなふうに近付けたこと、
 一度も・・・・・・・、




 アーウェイ様は女性に対しては主に、第一主義。


 丁寧な対応、物腰もやわらかく、しかし、ときにお堅く対応なされる御方であられる。



 けれども基本はレディと接する折、それはそれは玉のように、重宝のごとく応対してくださる、
 それがバトラーとしての礼儀でもあるからで。




 それは、
 今宵のわたくしに対しても然り。



 淡々とした口調ではあれど、決して、女性に対する無碍(むげ)はなさらないお方。



 そんな彼の方が、
 (とこ)の上となると、野獣のごとく、情熱的に女性を抱かれる。


 そこがまたギャップ萌えと言われる所以(ゆえん)であり、ご令嬢たちがアーウェイ様を離したがらないワケでもある。




 ────そう、誰もが、

 彼の方の"特別"であると信じて疑わない



 ────否、疑えない


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