マフィアの弾丸





 「…さて、どうされますか」




 今の今まで沈黙を呈していた竹倉が、わたくしの表情筋の変化ですべてを勘づいているにもかかわらず
 さっぱりと口を開く。



 それはまるで、

 わたくしが今後、奇行を起こし兼ねない予測を見抜いているかのごとし。




 ・・・・アーウェイ様。

 あのように、心配なさるの?あの子に対しては・・・・・・。




 もうわたくしには、侍従の勧告を聞き入れる余裕など()うに残ってはいなかった。



 目の前のお二方の、

 親密な関係に、当てられるばかりで。



 あの女性に対しては、感情豊かに表情を崩されている。



 心底、心配そうにその柳眉(りゅうび)を引きしまらせて、やんわりと彼女の腰に片腕をまわされたアーウェイ様は。

 そのままご自身の躯体に少女を引き寄せられてどこか、不機嫌と言わんばかりのお顔をなされていらっしゃった。



 アーウェイ様は彼女を車内へと誘導され、お二方は、高貴なその車体のなかへ身を仕舞われていく。

 そうして忽ち滑らかに走行し、国道にでたリムジン。



 わたくしは遠目で、発車されたテールランプをただぼうっと眺め、

 立ち尽くしているしかできなかった。




 ────「お嬢様、」


 「…竹倉」




 わたくしの声の走りに、常でない声調(トーン)が声音越しでも自らにとどいて、

 あぁ…、わたくしは嫉妬しているのだわ。と下卑た自覚が追いついた。



 そして逸早くそれを感受したらしい傍らの男がいちど、息を呑む気配を肌に感じる。


 しかし、すぐに
 「…はい」と格式張った返事とともにわたくしの背後についた。




 「────あの少女のことを隈なく調べて頂戴(ちょうだい)。一寸の漏れも見逃さず、徹底的によ」

 「……御意(ぎょい)に」




 ────…寒風が、わたくしを追いたてるべくして髪を吹き上げた。




 暗澹(あんたん)の宵に。

 こころに巣食った悪魔が遠吠えのごとく耳の奥で理性を崩す。




 ────あの小娘が立てなくなるまで、

 洗いざらい



 退路を断て、と。


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