マフィアの弾丸





 下りていく道すがら、視線を遠方にむければ、すでに、いつもの公園の入り口真横に、見なれた高級車が路上駐車されていて。



 そしてこの寒い中なのに。

 アーウェイさんが珍しく、車体に凭れかかり、外で待ってくれていたのだ。




 (…、なん、……で。いるん、だろ……)



 私が階段から下りてくる様を、ジ、と見詰め、凄絶(せいぜつ)なまでに美しいその姿と、絹糸のようにウェーブを描いたシルバーブルーの髪が寒空の宵のなか、明け透けに晒してしまっている。


 こちらが『勿体ない』と、隠してしまいたくなるほどに。




 「……っふぅ、」


 とたとた、と階段を下りていき。

 ふたたび、遭遇した横断歩道の信号機が、赤に変わってしまったので、その信号機をぼうっと眺めながら青になるのをジっと待つ。



 パッ、!と青にかわると左右を確認して。

 車が両者側からも来ていないことを確かめた私は道路をわたり、公園内へとさらに、歩を進めていった。




 みなれた、品質のよさそうなスリーピーススーツの様相で。


 アーウェイさんもツカツカとこちらに歩いてきてくれたので、急ぎ足で私は「……遅くなりました」と謝辞を告げながら頭を下げた。



 「…ぁの、」

 「…」


 近付いてきた彼は、その様相は美しいのに、せっかくの美麗なお顔はすこぶる、機嫌が悪そうである。



 なんとなく、・・・・うちの愛猫ちゃんに似ている。なんて、内心でちょっと思っていたら、


 ス────、と伸びた、男らしい手がスーツパンツに置いてあった位置から持ちあがり、私の顎先に引っかけるとすこし、屈んだ彼の純銀色の目とかち合う羽目になった。




 「っ、」


 「────寝不足、」

 「…」

 「クマ、できてんぞ。寝れてねぇのか?」

 「……寝て、る」


 「顔色もわりぃな。なに、生理?」


 「………ちがう」


 「ならなんで一人で帰るっつった?普段メールもLINEも総無視で電話しか寄越さねぇヤツが急にしかも一文だけ────、」

 「、しんどい」


 「…」




 ・・・・頭、いたい、しんどい。




 今は、距離ちかいひととも距離を置きたい。

 ・・・くらい、しんどい。



 今夜も綺麗にうねった、シルバーブルーの髪。

 白大理石のような白皙(はくせき)の肌も、すべてにおいて完璧な顔の造形も。




 今は、見るのがつらくて────…、


< 56 / 140 >

この作品をシェア

pagetop