マフィアの弾丸
目を、合わせていられなくって俯いた私の顎を、掬っていたアーウェイさんの長い、指が、スぅ────と簡単に解かれ。
大きな手のひらが頬と、
目許を行き来する。
冷たい寒空の下で待っていたであろうはずの、男のその手が、
大きく、暖かで。
頬に充てがわれた瞬間から優しく撫でられる仕草に、いつものアーウェイさんらしくなく丁寧だ。なんて、不躾なことをおもった。
手の甲から、じんわりと相手の体温の熱が私の冷たい頬にも、伝染して。
ぽっかりと空いた胸の穴が、埋められていくようだった。
「…目、赤ぇな。擦ったろ」
「…ぁいや、」
「まぁいい。────来い。アイツはしばらくしたら終わるハズだが、…。お前が一人でいてぇんなら家ぐらい貸してやる。何かあンならおれかアイツを呼んだらいい。敷地内にはいっから」
ごく自然に。
ウエストに腕を回されながら言われた、言葉の節々に、疑問が浮上してくるのに
『yes』とも『否』とも答えられず、悠然とリムジンまでエスコートされ。
気付けば、────馴れないはずの豪奢な車内に、私も座らされているという現状。
若干、覚束ない意識だったとはいえ、連れ込まれるまま革張りソファーに座した私にむかって、目の前に移動した彼に、顎をつかって「こっち来い」と誘われ。
そうして不審気に眉を顰めながらも言われるまま、従った私がわるかった…、
「ぶふっ、」
「オイ。これ以上、鼻潰すんじゃねーぞ。…ただでさえ鼻も鼻っ柱も弱ぇってのに、」
「いや。っちょっ、」
近付いた私の腕をつよく、引っ張り込んだアーウェイさんの胸もとに勢いよく、ダイブ。
打った鼻を、さすさすと指で撫でながら見上げてみれば、よりアーウェイさんの美顔が間近に圧倒されて。
おもったより距離が近すぎていたことに肩が、ビク、と跳ね上がってしまった。
挙句、なぜだか肩に腕をまわし込まれ固定されている上、アーウェイさんの脚の間に、抱き包められた形で身動きが取れない体勢をつくらされたからには、
…いや、なんの冗談だコレ。と。
本気で顔を歪めるしかなかったのは言うまでもない。