マフィアの弾丸
ふわりと香る、いつもの男のアロマの匂いと、車内のなかにひろがるスカッシュ系の芳香剤の匂い。
匂いには敏感な私でも決して、下卑た印象を受けない程度の上品な香りは、逆に、心地がいいとさえ思えるほどだった。
・・・・・まぁ、若干、煙草のにおいも混じってる感じではあるけれど。
いや、待って。
そんなことよりも────…、
「……ぇ。なに?」
「ナニが何だ」
「座りたい」
「座ってんだろ」
「いや違う、シートに」
「却下」
「……ぇ?なんで?」
口元をひくつかせて眉を寄せていた私だったが、ちら、と見上げた視線の先のアーウェイさんは
意味深に、フルスモークの窓の外を、眼光鋭く見据えていて。
その顔はいつもの、ふざけた感じではない、本意気のものだったので。
反駁しようとした口を咄嗟に、キュ、と仕舞い込んで様子をうかがった。
「────撒けるか」
「いえ。今のところ動きはないようです。先ほどの場所から追ってくる様子もありませんので、恐らくは会場の招待客か来場者の一端かと」
「…チッ、SPを付けなかったのは誤算だったか。しゃあねーな、コイツがとっとと一人で帰ろうとしてるって連絡が急だったしよ」
「…」
「えぇ、わたしも含め常に6人体制で監視を行ってはいるのですが。……なにぶん、お嬢さんにはコチラの面が割れていないものですから」
「…」
・・・・・な、なんか。
頭上の男と、後部座席のカーテンで遮られた先の運転手さんとで、なぜだかフツーに、淡々と会話が繰り広げられてるけど、
まさか、私。
・・・・・のことじゃない。よね?
と眉を寄せて悶々としていたら、
「オイ、テメェのことだぞ乳なし。連絡は絶対ぇ入れろっつっただろーが聞いてんのかアホなす」
「……は?」
「…お前ケンカ売っ、」
「メールした」
「せめてLINEにしろっつってん、」
「既読とかつくの見るのしんどい」
「……お前なぁ」
・・・・・なんだよ。
ちょおーーっと優しいと思ってたら、ただの勘違いだった。