マフィアの弾丸





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 ─────…腕のなかの少女が。

 (たちま)ち、やすらかに寝息をスゥースゥー、立てはじめると先刻まで流れていた緩慢な空気の流れが、




 ────…一瞬にして。


 ピリピリとした異様なものへと逸した。



 それは、後部座席を隔てた先のフロントシートに座る黒服たちへの、

 物言わぬ重圧と、牽制となって彼らに襲いかかっていく。




 「────オイ」



 「……ッハッ。申し、訳…ございません。アーウェイ様」

 「以後、…ッ以後このような事態が無いよう、迅速に、」



 「────テメェら何か勘違いしてねェか」




 フロントシートと後部座席を隔てるために用意されたカーテンですらも。

 もはや、この麗人たる男のまえではまるで用途を為さない。



 主君たる姿はバックミラー越しでも確認はとれない、────そうであるのに、"視えない"後部座席からは獰猛(ねいもう)な猛獣の殺気と、圧が。


 出される司令の声質だけでうかがい知ることができる。



 その含みにあるものは、"怒気"。



 決して言い訳も、逆らってもならない。

 これほどまでに、肌を粟立たせる事態を、自分たちは起こしてしまったのだろうかと。


 彼らは思いもしなかっただろう。




 「今日"が"おれでよかったな。テメェらは運がいい」


 「…ッッ」

 「っも、うしわけ、」



 「アイツがもし"迎え"だったら、……テメェら今日で命はなかったぞ。強運だったじゃねぇーか」




 アーウェイの声音はどんどん色を失い、温度が氷点下へと下がっていく。



 厳つく、屈強そうな体格と、黒服に身を包んだ男ふたりは、一方はわずかに、震えながらハンドルを捌き。


 助手席にすわるもう一方の男の顔色は、徐々に、青褪めていくばかりである。




 「────アイツはおれより優しかねェ。一再のヘマを踏めば即、監獄楽園に逆戻りだ。今度こそ命の保障はねーかもなァ」


 「っっ!申し訳っ、ございません、!」

 「以後っ、気をっっ引き締めっ!」



 「あぁそうだ。せいぜい気ぃつけてくれ。さんざん強姦や殺人罪でサツの世話になってきたテメェらが、(わら)にもすがる思いで処刑から逃れられたワケを一からよぉーく改めなおして、イマから職務に励めよ?

 ウォングループがお情けで"わざわざ"引き取ってやったアイツの"温情"に免じてテメぇらは庇護してもらってる身分なんだ。



 ────…次はねェぞ」




 なァ?恩をかえすのが、

 義理で、────…人情ってモンだろ?




 重厚感のあるトーンで。

 男たちに、そう低く、牽制を投げかけたアーウェイはふたたび、後部座席から精密な指示を彼らに繰り出した。




 それは正しく、

 ────籠の中の鳥を意図する


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