マフィアの弾丸





 いつ、何時(なんとき)、乗車してみても慣れることはない。




 バーカウンターのようにセッティングされた、シャンパングラスたちや、
 質感のよい高級クッションシートで囲われた、リムジンの車内。



 そこで豪快に足を広げて座る、
 真正面の。




 相変わらず、食えないような笑みを浮かばせて
 乗り込んだ私を、紫煙越しに見下す、外見(だけの)派手な男。




 若干、薄暗い車内でも艶めいて耀くシルバーブルーの髪が、ゆったり、ウェーブを描いて白皙(はくせき)(おもて)を縁取り、
 幾房か、無造作に外跳ねしている。



 きれいに楕円(だえん)を描いた、透きとおるような銀色の瞳。

 高い鼻梁(びりょう)、ダークレッド色味の薄い唇。




 猛烈に美しくて、かつ、野生みを窺わせるが甘さはなく、
 決して、女性的にも見えない。




 スーツ着のがたいも、そればかりでなく
 衿もとが異様にはだけたシャツの隙間から除く胸板は、
 しっかりと鍛えられたであろう、男性のもの。



 皮肉っぽく笑みを滲ませたその男は、
 指先に挟んでいた煙草を、吸い殻に捻りつぶすと「ホレ、診察すっから服脱げ」と。




 これまた、セクハラ紛いのサイテー発言をするもんだから
 私も応戦して「…髪散らかし男め、」と奮然として悪態をこぼした。




 「あん?今なんつったお前、」

 「髪そんなに禿()げ散らかして大丈夫ですかって言った」

 「嘘を吐け嘘を。おれサマの耳は誤魔化せねェぞ。てめぇ今、「髪散らかし男」っつったな「髪散らかし男」って」

 「…2回も言い直すくらいちゃんと聞いてるじゃないですか、」

 「おれのは髪散らかしたウチに入んねーんだよ、天然だ天然。天からの授かりモンだばぁか。…非常識なことばっかヌかしてっと乳揉むぞ」

 「……D以外は論外って言ったクセに卑怯者」




 あー論外だ論外。Aカップもねー生娘が調子こい、…ごにょごにょ、とまだ、言い足りない様子であろう男のセクハラ発言は、総無視して
 ストン、。



 静かに鎮座する、もうひとりの彼の隣に、私も腰を据え直した。




 同時に、動いた骨っぽい指先が
 私の頬に伸び、宥めるように手の甲で撫でられると、



 「…疲れたか、」と。
 労う声音が落とされて、




 「……ちょっと、だけ。たかだかアルバイト、なんですけどね…」


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