マフィアの弾丸
きっぱりとしたダークレッド色の唇から至極、煩わしげな音が
吐き出される。
・・・・久しく抱くことはなかった感情という名の糸口。
まさか
ふたたび、賽の目が転がされる日がくるとは。
男も思いはしなかったのだろう。
さらり、と撫でた少女の横分けの髪。
耳裏にかけてやると、短すぎてかすぐに、ながれて顔にかかってしまう。
・・・・オンナは、
もう、
娶ることはない腹づもりだった。
"あの件以降"、自分の性的処理以外で女を傍に置くことはなかったし、
私利をはかるために、アーウェイやカーフェイにおもねりへつらう女豹たち。というのが残念ながら、大衆の大半である。
────…しかしそんな境遇の最中に偶然、出逢った伊万里は
どこか、人とはちがった感性をもっていた。
・・・・・変わったオンナ。
自己主張がつよい訳ではないが、だからと言って自分の軸を持っていない
ワケでもない。
「────【マフィアの妻の共有】、か…」
ぽそり、と。
静かに車内に落とされた意図。
ラグジュアリーな空間には、あまりにも不釣り合いで、重々しく、
内に生々しい響きであった。
それは将来、────…まだ見ぬ先の、
伊万里が苦悶するであろう
逆境の
たった一欠片の・・・・・
示唆
アーウェイは、少女のこの先人生の不憫さに憐れみを抱き美麗な顔を歪めながらも。
しかし
彼女を手放す優しさも与えられないことには、
ひそかに、
滾る劣情を押し隠しつづけるしかないのであった────…。