マフィアの弾丸





 「……携帯、」



 キョロキョロと視線を忙しなく、動かして周囲を捜すのに
 当のスマートフォンどころか、私の持ち物すらが一切、見当たらない。



 視野に映りこむのは何インチかもわからない、高値のつきそうな液晶ビジョンや、
 大理石柄フローリングにダウンライトのついた随分と高い天井。

 硝子(ガラス)テーブル上にセットされたアフタヌーンティースタンド、
 大きな硝子戸に、左を向けばプールの水面がゆらゆら、と冬風によって波紋を
 広げている。




 「…」




 ・・・・・ほんとうに、贅沢な別荘地。



 ふかふかするソファーに腰を落ち着けながら、荒んでいたこころを見つめ直すように、静かに時間が流れる。


 ゆるやかで、なんの煩いの音もしなくて。

 目を閉じればそのまま安らかな眠りにつけそうな、




 (……………、疲れ、た)


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