神獣の花嫁〜いざよいの契り〜
一息に言い切ると、尊臣はそこでようやく可依から手を離す。

投げやりとも思える仕草は、どこか諦観の様を為し、可依には哀しく感じられた。

赤虎───赤い神獣は、生と懐胎を司る。

不妊に悩む民に施しを授ける神ではあるが、萩原家の所有する神逐(かむや)らいの(つるぎ)により、彼ら───下総ノ国の神獣との関係は、良くないと聞く。

神逐らいの剣は、この世で唯一、神獣の化身とされる者たちの肉体である神の器を、傷つけることのできる武具だからだ。

「跡目など、優秀な者を探し継がせればいい。俺の血筋にこだわる必要はないはずだ。

だから、よく当たると評判の夢占の巫女に、俺に子など出来ぬと言い切って欲しかったのだがな。あてが外れた」

立てた膝に肘をつき、からかうようにこちら見る尊臣に、可依は怒りとも哀しみとも解らぬ情動にかられ、言い放った。

「ですが、貴方様は御子を授かります!

跡目の件については、わたくしの預かり知らぬことですが、可愛らしい姫様で……確か、由良様と貴方はお呼びでした」

「ほう。子の名まで、もうあるのか。面白いな」

「た、戯れで申し上げているのではございませぬ! これは、紛れもないご神託で」

「───で? 巫女であるお前が、俺と契ると?」
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