神獣の花嫁〜いざよいの契り〜
参 泡沫──うたかた──
初めから、決められた別れ
始まりからして形式に則ったものではなかったのだから、気にするなと尊臣は言ったが、それでも三晩続けて通われたりすれば話は別だ。
尊臣が気にせずとも、養父はこれ幸いと三日夜の餅を準備してしまうだろう。
……可依を巫女として扱わず、ただの娘として尊臣に娶ってもらうために。
可依の意を酌んでか、それとも他に通う者があるためか。
尊臣が三日続けて可依のもとを訪ねることはなかった。
続けてやって来るのは二日ほど、不規則に空いた日数の後にふらりとやって来る。
そうして半年が経ち、気まぐれな訪いに過ぎないと信じた養父が、可依を尊臣の側妻にすることを諦めた頃。
可依の身体に、異変が生じた。
───月の障りの遅れと嗅覚の変化に伴った嘔吐。
尊臣の子を、身籠ったのだ。
❖
おぼろげな月の昇ったその晩。
いつも通りの無作法な仕草で御簾を上げ、尊臣が可依の前に姿を現した。
「お待ち申し上げておりました」
指をついて挨拶をすれば、めずらしく尊臣はわずかな動揺を見せる。
「……なんだ。お前にしては面妖な出迎えだな」
「そうでございましょうか? 貴方様にはいつも礼節を保ったつもりでございますが」
「は、笑わせるな。一度たりとも本心から俺を敬う気などなかったろうに」