神獣の花嫁〜いざよいの契り〜
❖ 終 ❖


       ❖


月日は流れ、わたくしももう(よわい)にして七十を越しました。

ホホ、口の悪い萩原(はぎはら)家の若君には『オババ』などと呼ばれております。

先頃の夢占で若君───虎太郎(こたろう)様から頼まれたのは、

『オレの宿命(さだめ)何処(いずこ)にある?』

などという抽象的な内容。おかげで返されたご神託は、

上総(かずさ)ノ国の海に近い場所で吉兆とめぐり逢える。又、月読(つくよみ)の加護を受けし者であろう』

と、これまた抽象的なものでございました。

幼少期よりお育ちを見守ってきた虎太郎様にございましたが、もとより、稀少(きしょう)なお生まれ。

何しろ、神獣様でございますれば、数奇な運命にも見舞われましょう。

ええ、わたくしは未だ巫女でおりまする。
現役でございますとも。霊力の衰えは一向に感じておりませぬ。

ただ……年々、足腰はだいぶ利かなくなってまいりましたがね。

───ああ、あちらから、若き日の尊臣様に瓜二つの男性が。

「ご無沙汰しております、お祖母(ばあ)様」

折り目正しく挨拶されるなど、外見だけしか似てはおりませぬが、紛れもなく、かの御方のお血筋を受け継がれておられることが分かります。
< 17 / 20 >

この作品をシェア

pagetop