神獣の花嫁〜いざよいの契り〜


      ❖


可依の夢占は、望月の晩に身を清め、依頼者が記した名と占う内容の書かれた紙を枕の下に置き、眠ることに始まる。

その夜、夢の中で可依は何度も訪れた場所へ向かう。
しかしそこは、夢の中でしか訪れたことのない社。

湖上に浮かぶ社へは、水面(みなも)をすべるようにして歩いて渡ることができた。

八畳ほどの板の間に神棚があり、そこに依頼者が知りたい内容が書かれた紙───可依はこれを「神託」と呼ぶ───が置かれているのだ。

可依はそれを夢の中で読み、目覚めたらすぐに書き記す───それが、通常の夢占だった。

しかし、尊臣の依頼を受けて眠った晩に見た夢は、いつもの夢占とは違った。

(なんじ)の目で確かめよ』

そう書かれた「神託」に、可依はとまどった。

今までこんな抽象的な文言はなかった。

例えば「今年は豊作か?」と問われれば「前年より実り多し。ただし、苗は前年より早めに植えるべし」といった具合に、助言も入るくらいだ。

「確かめる? どういうこと……?」

思わず口をついた疑問に応えるかのように、目の前の景色が一変した。

夢にしか出てこない社から、(うつつ)に存在する大神社の境内に、可依は立っていた。
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