神獣の花嫁〜いざよいの契り〜
弐 夢現──ゆめうつつ──
神に刃向かう宿命(さだめ)
尊臣の反応が、怖かった。
無礼者とののしられるか。身の程知らずな者よと嘲笑を浴びせられるか。
いずれにせよ、可依は面を床板に伏したまま、身体を硬くし尊臣の言葉を待った。
「ほう……これは、予想外の結果だな」
かすかに笑う気配がして、これは後者かと可依が身を縮めたままでいると、顔を上げろとぞんざいな声がかかった。
「まさかとは思うが、お前、俺に情けを交わして欲しいのか?」
「お戯れを申されますなっ!」
相手がこの地を治める豪族の当主、ひいては大神社の主祭だということは、恥辱のあまり頭からすっかり抜け落ちていた。
反射的に叫んだ可依に対し、粗忽者めと激昂し、扇で打たれてもおかしくなかったが。
しかし尊臣は、最初の晩と同じように、喉の奥で笑ってみせた。
「そうだ。お前のその反応が見たかっただけだ。
だが……そうか、つくづく俺は、神に刃向かう宿命をもつようだな」
「え……」
「俺が禍つ神を滅する儀を執り行ったのは知っているだろう?」
「もちろん、存じております」
「ならば、神獣に刃を突き立てたことも知っているはずだ」