神獣の花嫁〜いざよいの契り〜
禍つ神とされた神獣・白虎(はくこ)神逐(かむや)らいの(つるぎ)で滅ぼし、新たに再生させた儀式───というのが、下総ノ国の民の認識だ。

けれども実際は、震災という『一大事』を禍つ神の仕業と位置づけ神獣を滅し、人心を落ち着かせようとしただけ、と。
一部の官の間で噂されたと伝え聞く。

傲岸不遜の国司。
それが萩原尊臣という人物の評価である一方、民を思い、打てる手はすべて打つという、傲慢なだけではない面も合わせもつとされる。

(後悔をなさっているのかしら)

人間(ひと)でありながら、神獣(かみ)を手にかけたことを。

可依の思いを見抜いたように、尊臣が鼻で笑った。

「勘違いをするな。悔いるような決断であれば、最初からしていない」

それより、と、尊臣の手指がふいに伸びて、可依の(おとがい)をつかんだ。

「お前が俺の子を(はら)めるというのか」

「……っ!」

「俺には正式な妻だけで三人、通うだけの者を含めれば十人は下らない。
古くは十五に契りを交わした女がいて、未だ誰も懐妊には至ってないのだ。

古い臣(ジジイ)どもは相手を替えればというが、畳ではあるまいし女の問題ではなく俺自身に原因があると考えるのが道理だろう。

(しま)いには、俺が一番 侮っていた赤虎(せきこ)を頼れとまで言われたのだぞ? 笑わせるだろう」
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