クズで噂のヤンキー君のことだけは絶対に忘れたくない
でもこうして顔を真っ正面から見ると口の端も切れて血が滲んでしまっているし、右の頬も赤く腫れてしまっていた。

とりあえず早く冷やさないと…

えーと、何か冷やすもの…冷やすもの…

カバンの中におもむろに手を突っ込んで、とにかく冷やせそうなものを探す。

あっ、そうだ!

パッとひらめき、私はカバンの端っこの方に押し込められたみたいに斜めに入れられた弁当袋に手を伸ばした。

毎日欠かさず学校に持って行ってるお母さんの手作り弁当には必ず“保冷剤”も一緒に入れられている。

今朝冷蔵庫から出したものだし、お昼休みの時点ですでに溶け始めていたから取り出した保冷剤は案の定ぷにょぷにょ。

”冷やす“という本来の目的をすっかり放棄していた。

でも何も無いよりはきっとマシ!

本来の冷たさには劣るけど人肌よりは冷たいはず。

「ちょっと当てるね…っ」

ぷにょぷにょの保冷剤を彼の頬に引っ付ける。

すると…

「ひゃっ」

突然手首を掴まれて変な声が出てしまった。

まるでお化けにでも遭遇した時のようなそんな声。

「…なんだこれ」

訝しげに表情を濁らせた彼は自身の頬に当てられた保冷剤に警戒している様子だった。

「保冷剤だよ! ほっぺた赤くなってるからちゃんと冷やさないと…っ」
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