クズで噂のヤンキー君のことだけは絶対に忘れたくない
「…っ!?」

腰に彼の手が回されて、そのままグイッと引き寄せられた。

密着する身体と身体。

気付くと私の身体は彼に抱きしめられていた。

それだけでもドッキドキなのに、さらに頭の後ろにも手が添えられて、強制的に私は彼の肩に顔を埋める形に。

自身の胸板に私を押さえつける手は力強くて、ビクともしない。

テンパってジタバタもがけばより強い力が加わるだけ。

逃げ場が…どこにもない……。

「あっ、あの…っ」

「心臓、めっちゃドキドキしてんじゃん」

「ひゃっ……」

蚊の鳴くような声が漏れたのは、彼の吐息が耳に触れたから。

耳元で囁くように放たれたその…、低く、抑揚のない男の人の声に私の頭はどんどん真っ白になっていく。

「いやっ…、こっ、これは違くてっ、あっ、えっと…」

言葉がうまく出てきてくれない。

男の人に抱きしめられたなんて…。

お父さんを除いては、この人が初めて…

うぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ、どうしたら…っ

困り果て、下唇を噛んだその時。

「驚かせて、ごめんな」

パッと身体が離れていき、まるで小さな子供にしてあげるみたいに少し屈んで、私と目線を合わせた彼。

また、柔らかい笑みを浮かべながら私の頭をポンポンした。

「お礼を、と思ったんだ」

「お礼…?」

「冷やしてくれただろ?」

「あっ…」
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