君に会うために僕は

初恋の話

「お兄ちゃんが…優斗くん?」

君と出会った瞬間を僕は今でも鮮明に覚えている。


紗月と初めて出会ったのは、確か小学2年生の時だった。その時の僕は子どもながら自分の出生にがっかりしていた。

『優斗くんのパパ、社長さんなんて本当に凄いね』

『優斗くん、お父さんに宜しくね』

『よくできたお子さんで…』

僕のことを皆んなが知っていた。だれも僕を僕として見てくれなかった。皆、父が第一で、僕はあくまで"父の息子"だった。それに気がついたときは寂しくて悲しくてどうにかなりそうだった。

あれは確か父の会社で普段は見ることのできない自分の親の働く姿を子どもたちが見学できるイベントを行った日だったか。

僕はもちろん参加させられた。母と共に。そして、ずっといろんな人へ挨拶をさせられて"見せ物"になっていた。

一緒にイベントに参加している子どもたちはどうしてあんなに楽しめているか疑問だった。僕はちっとも楽しくなかった。皆に挨拶したところで僕は"父の息子"でだれも僕を"優斗"と見てくれないのに。それでも僕は父に教わったように笑顔で挨拶を続けた。それがもう当たり前だったから。

「さっきのところでお菓子もらったんだ!」

「よかったね」

とある親子がそんな会話をしていた。僕はどうやら挨拶をしていてもらい損ねてしまったようだ。

だけど、僕は我慢しなきゃ…。
お父さんの子どもなんだから…。

そう思った。

けれど、ふと魔が刺して。
僕は大人の目を盗んで母から離れた。

どこで貰えたのだろうか?今まで訪れた場所を再確認していけばわかるだろう。

しかし、その時の僕はまだ小学2年生だった。母親に連れられ周った場所など確実に覚えているわけもなく迷子になってしまった。

周りに大人はいたが怒られる気がした。僕は急に怖くなりフロアの陰に隠れた。

後から知った話だがこの時大騒動になっていたらしい。社長の息子が突如行方不明になったわけだ。最悪の事態も考えざるおえない。

そんなことは露知らず。僕は怯えていた。見つかれば怒られる。そんなことを考えていた。大声で誰かに呼ばれた気がしたが、怖くて出ることができなかった。

「お兄ちゃんが…優斗くん?」

暗がりで泣きそうになっていた僕の目の前に現れたのは、猫の人形を持った小さな女の子だった。

「大丈夫?あのね、紗月ね、"優斗くん"をママと探してたの。お兄ちゃんが、優斗くん?」

僕はこくんと頷いた。

「あのね、怖くないよ。紗月も一緒にいるよ。だから、一緒にいこう。これ、紗月の宝物…だけど、貸してあげるね」

僕はその小さな女の子に頭を撫でられた。貸してくれた猫のぬいぐるみを抱きしめるとなんだか少し落ち着いた。

「手、つなご…」

彼女が僕の手を握った。暖かくて涙が出て、僕は大声で泣いた。

戻ると母が号泣していて、こぴっどく叱られた。もちろん父からも。今までにないくらい怒られた。だけど2人とも優しく抱きしめてくれた。僕はもう涙が止まらなくなった。

事が全て終わった後、僕の心には彼女の手の温かさや出会った瞬間、僕の名前を呼ぶ声が残り続けた。

「あの子、また会えるかなぁ…」

後から気づく事になるが、

これは僕の初恋になった。
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