君に会うために僕は

第三章

気づけば高校入学からいつの間にか一か月が過ぎていた。ようやくクラスの人の顔と名前が一致するようになり、それは周りも一緒なのかクラス全体で和気あいあいとした空気が当たり前になっていた。

「紗月ちゃん!次の授業の課題の問5解った?ルナ解らなくて…」

「あーこれはね…」

そしてルナちゃんとは良好な関係を続いていた。

あの部活動見学の日。ルナちゃんから入学した理由を告白されたけれど、私は普通にそれを受け入れた。特に変な理由だとも思わなかった。好きな人と同じ学校に通いたい。恋をする学生であればだれもが考えることなのではないだろうか。確かに進路はとても重要な決断だ。適当に決めてよいものではないだろう。ただ、私は人それぞれだと思う。その人がそう決めたのではあればよいと思う。…私の入学理由だって人に誇れるものではない。

「なるほど、問5理解した!本当にありがとう!これで先生に怒られずに済むよ…」

あの日のルナちゃんに私は、そのことを”受け入れる”というということを言葉にして伝えた。それを聞いたルナちゃんはとても安堵した表情をしていたのを覚えている。

その日を境により仲が深まったように感じる。

だけど…

その後、しばらくその場で世間話をしていたが、途中私の入学理由を聞かれた。

『そういえば、紗月ちゃんはなんでこの学校に?2時間もかかるんでしょ…?』

『…』

『紗月ちゃん?』

『…私は…』

『うん』

『その…』

言うか言うまいか悩みに悩んで。…結局私は事実を伝えることができなかった。言うのを渋っていた私を見かねたルナちゃんが別の話に切り替えてくれた。申し訳ないと思った。

ルナちゃんに話すか悩んだのには理由があった。一つは両親に人にあまり人に話さないよう言われているためだ。たしかに、昔事故に遭ったり、記憶障害を持っていることを話しても他人にいらない心配をかけるだけだ。もう一つはただ単に私が面倒くさいというのもある。経緯や説明が複雑だし、好奇心で色々と聞かれることもある。あまりいい思いをしたことがないのだ。まぁ、もう少し時間がたったら伝えるかまた考えよう。

「紗月ちゃん。そういえばさ、今日はどっちに行くの?」

次の授業の課題を無事に解き終えたルナちゃんが首をかしげて聞いてきた。

「どっちって何のこと?」

「部活だよ!部活。今日、天文部あるけど…どうする?」

「あー…」

…今日は火曜日。そっか…被ってる日か。

部活動だが、ルナちゃんは結局天文部に所属した。まだ晃星さんに告白はできていないみたいだが、仲良くやっている。そして…私は…。

「…今日は、美術部にしておくよ。天文部は金曜顔出そうかな…」

何故か美術部と天文部、二つの部活に所属していた。

元々第一希望は美術部だった。物心ついたころから絵を描くのが好きで、進路はできればそっちの方向に進みたいと思っている。なのになぜ、美術部だけでなく天文部にも所属することになったのか…。

『紗月、天文部入るよな?入部届もう準備しておいたんだけど…』

次の日の朝、優斗先輩はすでに記入済みの入部届を持って教室にやってきた。朝から頭が痛くなりそうだったが、どうにか断るつもりだった。…けれど…。

『ねぇ、天文部入るんだって?これからよろしくね。二宮紗月さん』

廊下で偶然会った晃星さんにこう言われて。

『え!紗月ちゃん、天文部入るの?うれしいなぁ…。紗月ちゃん一緒に入ってくれないかな…って思ってたんだ』

そうルナちゃんにキラキラした目で言われ…断ることができなかった。

星和高校は部活動に2つまで所属することができる。天文部は火、金の週2の部活動で毎回参加しなくても特に問題はないようだった。美術部は火、水、木の週3でこちらも強制ではないのだが、コンクール等が近い時は頻繁に顔を出す必要がある。なので、両立ができないわけではない。…一番大事な記憶を取り戻すための時間も作らないといけないのに、なんでこんなことに。

「じゃあ、金曜日ね!…結局、優斗先輩と晃星と私と紗月ちゃんの4人だけの部だからさ、紗月ちゃんがいる日はいつもより少しにぎやかになるから本当嬉しいんだ」

ルナちゃんがニコニコしながら言った。

まぁ…ルナちゃんが嬉しそうならいいか。
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