君に会うために僕は
その日の放課後、私は美術室へ足を運んだ。
美術室に入ると油絵の具の独特のにおいがする。付いてしまい落されることのなかった絵の具だらけの机も、デッサンに使う胸像も、先輩方が残していった様々な作品も、なんだかザ・美術室って感じでとても好きだ。
まだ、先生も先輩も誰も来ていなかった。美術部も天文部までとはいかないがそこまで部員が多いわけではなかった。まだ会ったことがない先輩もいる。幽霊部員というやつだろうか。
私と同じ1年生は男子2人、女子4人の計6人が入部した。ただ、クラスが全員違うのでまだ少し話すときには緊張する。
私は準備室に入り、自分のスケッチブックを取り出した。顧問の先生から課せられた課題に取り組むためだ。
課題は二種類あった。一つ目は美術部においてある物から二つ選んでのデッサン。もう一つは人物デッサンだった。先生曰く、『みんなのレベルがどれだけであるか知りたい』とのこと。今まで、そのような学校に通ってきたわけではなく、中学の美術の時間に基礎的なものしか学んでない私にはレベルが高いものだった。それでようやく一つ目の課題をついこないだ終わらせることができた。あまり上出来とは言えないが…。
私と同じ1年生でとっくに二つの課題を提出している人がいるらしい。…頑張らなくては。
残りは人物デッサン。中学生のころに授業で行ったことがあったが、あまりうまくできた記憶がない。今でもうまくできる気はしないが、とりあえずモデルを決めなくては始めることもできない。
「…なんか今日誰も来ないんだけど…。どうしよう」
顧問の先生さえ。ここの美術部もそこまで参加を強制してない部活そうだったのでこんな日もあるのかもしれない。ただ、誰もいないということはモデルがいないのだ。
「困ったな…。とりあえず芸能人の写真とか…もしくは鏡で自分見ながら描く…しかない…か」
出来ればリアルな自分以外のモデルが良かったのだけど…。しょうがない。自分を描くことにして鏡があったか準備室へ確認しに行こうとしていたその時だった。ガラッと美術室の扉が開いた。顧問か部員だろうか?助かった。もし可能であればモデルになってもらおう。そう思った。
けれど扉の向こうにいたのは思いがけない人だった。
「失礼します。あ、二宮さん」
「え?晃星さん?こんなところで何してるんですか?」
そこにいたのは晃星さんだった。今日は天文部があるはずだから部室にいるはずなのに。
「二宮さんはこっちで部活中?今日あんまり部活してる人いないのに。偉いね」
「そうなんですか?」
「今日は職員会議で顧問たちみんな来ないからね。ゆるいところは結構みんな遊びに行ってるよ」
「…知りませんでした」
なるほどそういうこともあるのか。絵を描くことは確かに家でもできないわけではないし…。締め切りが近いコンテストも今の時期はまだないと聞いている。そうなると、今日は誰も来ない可能性が高い。
私はため息をついた。それにしても…
「天文部は今日部活しっかりやっているんですね。天文部もしかして何か急ぎの活動とかありました?そしたらこっち切り上げようかと思うんですけど…」
「え、やってないよ。今は優斗先輩がお茶会開いてるもん」
「お、お茶会?」
予想外の答えが返ってきたので思わず反復してしまった。
「なんか美味い菓子持ってきてた。で、ルナに二宮さんのことずっと話してるよ」
「…いったい何を…」
急に寒気がした。余計なことなど話していなければいいのだけど…。
「二宮さんとの出会いとか…。ルナは楽しそうに聞いてるけどね」
「そうですか…」
本当にあの人はいったい何を考えているのだろうか?部活動をしろ。部活動を…。
「ところで、なぜ晃星さんはこんなところに?」
「俺はここに置いてあるって聞いた天体図鑑探しに来たんだ。先輩が話に夢中だったから隙を見て抜け出して。昼、美術の先生に借りていいか聞いたらいいよって言われたからさ」
「あぁ、見たことある気が…。あ、準備室に置いてあるやつですかね。取ってきます」
なぜ天文部の彼が美術室の準備室にあるものを知っているのだろうか。謎だったが、目当てのものを見つけて彼に渡した。結構古い本なのかボロボロだ。そんなにいい本なのだろうか?
「はい、これ…ですよね?」
「あ、これこれ。絶版になっててさ、近所の図書館にはなくて…。去年、ここの見学に来た時に天文部の先輩が教えてくれたんだよね。『この学校入学すれば美術部で幻の一冊が読めますよ』…てね」
「へぇ、もしかして…それが目的でこの学校に?」
「いや、まさか」
晃星さんがくすくすと笑った。…まぁ、そうですよね。
「俺はまた別の理由があるよ。今度わかると思うよ」
「…ふーん…」
美術室に入ると油絵の具の独特のにおいがする。付いてしまい落されることのなかった絵の具だらけの机も、デッサンに使う胸像も、先輩方が残していった様々な作品も、なんだかザ・美術室って感じでとても好きだ。
まだ、先生も先輩も誰も来ていなかった。美術部も天文部までとはいかないがそこまで部員が多いわけではなかった。まだ会ったことがない先輩もいる。幽霊部員というやつだろうか。
私と同じ1年生は男子2人、女子4人の計6人が入部した。ただ、クラスが全員違うのでまだ少し話すときには緊張する。
私は準備室に入り、自分のスケッチブックを取り出した。顧問の先生から課せられた課題に取り組むためだ。
課題は二種類あった。一つ目は美術部においてある物から二つ選んでのデッサン。もう一つは人物デッサンだった。先生曰く、『みんなのレベルがどれだけであるか知りたい』とのこと。今まで、そのような学校に通ってきたわけではなく、中学の美術の時間に基礎的なものしか学んでない私にはレベルが高いものだった。それでようやく一つ目の課題をついこないだ終わらせることができた。あまり上出来とは言えないが…。
私と同じ1年生でとっくに二つの課題を提出している人がいるらしい。…頑張らなくては。
残りは人物デッサン。中学生のころに授業で行ったことがあったが、あまりうまくできた記憶がない。今でもうまくできる気はしないが、とりあえずモデルを決めなくては始めることもできない。
「…なんか今日誰も来ないんだけど…。どうしよう」
顧問の先生さえ。ここの美術部もそこまで参加を強制してない部活そうだったのでこんな日もあるのかもしれない。ただ、誰もいないということはモデルがいないのだ。
「困ったな…。とりあえず芸能人の写真とか…もしくは鏡で自分見ながら描く…しかない…か」
出来ればリアルな自分以外のモデルが良かったのだけど…。しょうがない。自分を描くことにして鏡があったか準備室へ確認しに行こうとしていたその時だった。ガラッと美術室の扉が開いた。顧問か部員だろうか?助かった。もし可能であればモデルになってもらおう。そう思った。
けれど扉の向こうにいたのは思いがけない人だった。
「失礼します。あ、二宮さん」
「え?晃星さん?こんなところで何してるんですか?」
そこにいたのは晃星さんだった。今日は天文部があるはずだから部室にいるはずなのに。
「二宮さんはこっちで部活中?今日あんまり部活してる人いないのに。偉いね」
「そうなんですか?」
「今日は職員会議で顧問たちみんな来ないからね。ゆるいところは結構みんな遊びに行ってるよ」
「…知りませんでした」
なるほどそういうこともあるのか。絵を描くことは確かに家でもできないわけではないし…。締め切りが近いコンテストも今の時期はまだないと聞いている。そうなると、今日は誰も来ない可能性が高い。
私はため息をついた。それにしても…
「天文部は今日部活しっかりやっているんですね。天文部もしかして何か急ぎの活動とかありました?そしたらこっち切り上げようかと思うんですけど…」
「え、やってないよ。今は優斗先輩がお茶会開いてるもん」
「お、お茶会?」
予想外の答えが返ってきたので思わず反復してしまった。
「なんか美味い菓子持ってきてた。で、ルナに二宮さんのことずっと話してるよ」
「…いったい何を…」
急に寒気がした。余計なことなど話していなければいいのだけど…。
「二宮さんとの出会いとか…。ルナは楽しそうに聞いてるけどね」
「そうですか…」
本当にあの人はいったい何を考えているのだろうか?部活動をしろ。部活動を…。
「ところで、なぜ晃星さんはこんなところに?」
「俺はここに置いてあるって聞いた天体図鑑探しに来たんだ。先輩が話に夢中だったから隙を見て抜け出して。昼、美術の先生に借りていいか聞いたらいいよって言われたからさ」
「あぁ、見たことある気が…。あ、準備室に置いてあるやつですかね。取ってきます」
なぜ天文部の彼が美術室の準備室にあるものを知っているのだろうか。謎だったが、目当てのものを見つけて彼に渡した。結構古い本なのかボロボロだ。そんなにいい本なのだろうか?
「はい、これ…ですよね?」
「あ、これこれ。絶版になっててさ、近所の図書館にはなくて…。去年、ここの見学に来た時に天文部の先輩が教えてくれたんだよね。『この学校入学すれば美術部で幻の一冊が読めますよ』…てね」
「へぇ、もしかして…それが目的でこの学校に?」
「いや、まさか」
晃星さんがくすくすと笑った。…まぁ、そうですよね。
「俺はまた別の理由があるよ。今度わかると思うよ」
「…ふーん…」