君に会うために僕は
準備室に入るとお目当ての本はすぐに見つかった。
戸棚から取り出して晃星さんに渡すと、目をキラキラ輝かせて嬉しそうに本を受け取った。
本当に天体が好きなんだな…。
まぁ、一人で児童館のプラネタリウム見るくらいだし…今度詳しく話聞いてみようかな。
…。
ペらりと紙をめくる音がする。心地が良い音だ。
シャッシャッカリカリと鉛筆の音がする。この音も何とも心地が良い。
今、美術部にはこの二つの音しかしていなかった。
一つ目の音は晃星さんが図鑑のページをめくる音。
二つ目の音は私が紙に鉛筆を走らせている音だった。
春とはいえまだ日が陰るのは早い。
空はだんだんと赤く染まっていっていた。
私は結局図鑑と共に見つけた手鏡を見ながら自分を描くことにした。…自分を描くのってなんて難しいんだろう。ていうか人物画が苦手。あまり描いたことないって言うのもあるけど…。
どうにも集中できず、ふと顔をあげると斜め向かいの机に座った晃星さんが視界に入ってきた。
「…あの…晃星さん」
「んー?」
ページから目を離すことなく晃星さんが返事をする。
「なんでここで見てるんですか?部室使えばいいのに。先生も貸してくれるって言ってたんですよね?」
「あー。ほら、あの、優斗先輩がね。…せっかくだから静かに見たくってさ…」
「あー…なんかごめんなさい」
いや、私は別に悪くないんだけど…ね…。
「それに…」
「それに?」
「鉛筆の音とページの音がさ、なんか心地がいいんだよね…」
「え!めっちゃわかります!私も同じこと考えてました」
思わず席を立って同意する。その拍子に椅子が倒れガタンと音が鳴った。晃星さんが慌ててこちらを確認する。
「え、大丈夫?」
「あ、すみません。興奮しちゃって。なんか同じ気持ちだったの嬉しくって」
「いや、いいよ。人と好きなこと共感できたとき思わずテンション上がるのわかる」
「あ、でも、ちょっと興奮しすぎました…。えへへ…落ち着きます…」
なんか急に恥ずかしくなってきた。興奮して椅子まで倒して。何やってんだ私は。
倒れた椅子を起こし座る。
まだあまり晃星さんと二人っきりで話したりしたことないし…。
ちょっと緊張するな…。
ちらっと晃星さんを見る。もう図鑑に集中していた。
その姿を見て、私は目を奪われた。
晃星さんは窓際の席に座っていた。その窓から夕焼けのオレンジ色の光が差し込んでいる。
机に肘を置き、斜めに座って図鑑を眺めている。
ページをめくる音がした。彼はゆっくりと瞬きをする。
これは、なんというか…。
私は立ち上がり晃星さんに少しずつ近づいた。
図鑑に集中しているようで全くこちらには気づいていない。
私は晃星さんの向かいの席に座った。
「あの…」
「ん?」
「絵のモデルになってくれませんか?」
「…んー…え、今なんて?うわっ!」
今更私が席を移動してきたことに気が付いたのか危うく椅子から落ちそうになっていた。改めて座りなおすと私の顔を覗き込んだ。
「えっと今なんて言った?絵の…モデル?」
「そうです!私、今課題で人物画のデッサンしなきゃいけなくてモデルを探していたんですけど。今、晃星さんのこと見てたらこう『描きたい』って思ったんです!」
「え、モデルって何…。ぬ、脱げってこと?俺そんないい身体してないよ…」
「ぬ、脱げって…ち!違います!な、なにを言っているんですか!」
「…いや、さすがに冗談だったんだけれど…」
晃星さんが少し呆れた顔でこちらを見ている。
…冗談を真に受けてしまって照れくさい。
「その…普通に制服を着た今の晃星さんを描かせてください。その図鑑読んでいていいので」
「まぁ、それなら…。でも、俺のどこが良かったの?」
「え…?」
晃星さんがじっとこちらを見ている。
気恥ずかしくて思わず目を逸らした。
「えっと…あの…よ、横顔が…」
「横顔?」
「横顔が、すごい…綺麗で、素敵だなと…思いました」
「…」
「それと、夕焼けとか瞬きとかページめくる瞬間とかシチュエーションが相まって…。一枚の写真に収めたくなるくらい美しい時でした…よ」
私はいったい何を言っているんだろうか。
なんか…すごく恥ずかしくなってきた。顔も熱い。よくよく思い出してみれば語彙力も皆無だし…。もっと他に伝え方あっただろうに!
晃星さんは動かず黙ったままだ。もしかして怒っているんだろうか。
恐る恐る晃星さんの方に顔を向ける。
私は唖然とした。
「え…晃星さん、照れてます?」
「そんなこと言われたら誰だって照れるわ!」
そこには両手で顔を覆っている晃星さんがいた。なんか可愛いと感じてしまった。思わず笑ってしまう。
「ちょっと手外してくださいよ。絵、描けないじゃないですか!」
「二宮紗月…笑いやがって…。そんなんじゃモデルやらねーぞ!」
「!ってことはやってくれるんですね!ありがとうございます!もう笑いません!ごめんなさい」
「ったく…」
両手を外して、再び図鑑に手を伸ばした晃星さんの顔はなんだかほんのり赤い気がした。
「顔…まだ赤いですね…」
「ゆ、夕日のせいだ。絶対!」
戸棚から取り出して晃星さんに渡すと、目をキラキラ輝かせて嬉しそうに本を受け取った。
本当に天体が好きなんだな…。
まぁ、一人で児童館のプラネタリウム見るくらいだし…今度詳しく話聞いてみようかな。
…。
ペらりと紙をめくる音がする。心地が良い音だ。
シャッシャッカリカリと鉛筆の音がする。この音も何とも心地が良い。
今、美術部にはこの二つの音しかしていなかった。
一つ目の音は晃星さんが図鑑のページをめくる音。
二つ目の音は私が紙に鉛筆を走らせている音だった。
春とはいえまだ日が陰るのは早い。
空はだんだんと赤く染まっていっていた。
私は結局図鑑と共に見つけた手鏡を見ながら自分を描くことにした。…自分を描くのってなんて難しいんだろう。ていうか人物画が苦手。あまり描いたことないって言うのもあるけど…。
どうにも集中できず、ふと顔をあげると斜め向かいの机に座った晃星さんが視界に入ってきた。
「…あの…晃星さん」
「んー?」
ページから目を離すことなく晃星さんが返事をする。
「なんでここで見てるんですか?部室使えばいいのに。先生も貸してくれるって言ってたんですよね?」
「あー。ほら、あの、優斗先輩がね。…せっかくだから静かに見たくってさ…」
「あー…なんかごめんなさい」
いや、私は別に悪くないんだけど…ね…。
「それに…」
「それに?」
「鉛筆の音とページの音がさ、なんか心地がいいんだよね…」
「え!めっちゃわかります!私も同じこと考えてました」
思わず席を立って同意する。その拍子に椅子が倒れガタンと音が鳴った。晃星さんが慌ててこちらを確認する。
「え、大丈夫?」
「あ、すみません。興奮しちゃって。なんか同じ気持ちだったの嬉しくって」
「いや、いいよ。人と好きなこと共感できたとき思わずテンション上がるのわかる」
「あ、でも、ちょっと興奮しすぎました…。えへへ…落ち着きます…」
なんか急に恥ずかしくなってきた。興奮して椅子まで倒して。何やってんだ私は。
倒れた椅子を起こし座る。
まだあまり晃星さんと二人っきりで話したりしたことないし…。
ちょっと緊張するな…。
ちらっと晃星さんを見る。もう図鑑に集中していた。
その姿を見て、私は目を奪われた。
晃星さんは窓際の席に座っていた。その窓から夕焼けのオレンジ色の光が差し込んでいる。
机に肘を置き、斜めに座って図鑑を眺めている。
ページをめくる音がした。彼はゆっくりと瞬きをする。
これは、なんというか…。
私は立ち上がり晃星さんに少しずつ近づいた。
図鑑に集中しているようで全くこちらには気づいていない。
私は晃星さんの向かいの席に座った。
「あの…」
「ん?」
「絵のモデルになってくれませんか?」
「…んー…え、今なんて?うわっ!」
今更私が席を移動してきたことに気が付いたのか危うく椅子から落ちそうになっていた。改めて座りなおすと私の顔を覗き込んだ。
「えっと今なんて言った?絵の…モデル?」
「そうです!私、今課題で人物画のデッサンしなきゃいけなくてモデルを探していたんですけど。今、晃星さんのこと見てたらこう『描きたい』って思ったんです!」
「え、モデルって何…。ぬ、脱げってこと?俺そんないい身体してないよ…」
「ぬ、脱げって…ち!違います!な、なにを言っているんですか!」
「…いや、さすがに冗談だったんだけれど…」
晃星さんが少し呆れた顔でこちらを見ている。
…冗談を真に受けてしまって照れくさい。
「その…普通に制服を着た今の晃星さんを描かせてください。その図鑑読んでいていいので」
「まぁ、それなら…。でも、俺のどこが良かったの?」
「え…?」
晃星さんがじっとこちらを見ている。
気恥ずかしくて思わず目を逸らした。
「えっと…あの…よ、横顔が…」
「横顔?」
「横顔が、すごい…綺麗で、素敵だなと…思いました」
「…」
「それと、夕焼けとか瞬きとかページめくる瞬間とかシチュエーションが相まって…。一枚の写真に収めたくなるくらい美しい時でした…よ」
私はいったい何を言っているんだろうか。
なんか…すごく恥ずかしくなってきた。顔も熱い。よくよく思い出してみれば語彙力も皆無だし…。もっと他に伝え方あっただろうに!
晃星さんは動かず黙ったままだ。もしかして怒っているんだろうか。
恐る恐る晃星さんの方に顔を向ける。
私は唖然とした。
「え…晃星さん、照れてます?」
「そんなこと言われたら誰だって照れるわ!」
そこには両手で顔を覆っている晃星さんがいた。なんか可愛いと感じてしまった。思わず笑ってしまう。
「ちょっと手外してくださいよ。絵、描けないじゃないですか!」
「二宮紗月…笑いやがって…。そんなんじゃモデルやらねーぞ!」
「!ってことはやってくれるんですね!ありがとうございます!もう笑いません!ごめんなさい」
「ったく…」
両手を外して、再び図鑑に手を伸ばした晃星さんの顔はなんだかほんのり赤い気がした。
「顔…まだ赤いですね…」
「ゆ、夕日のせいだ。絶対!」