君に会うために僕は
「…」
「…」
なんだか気まずくなってしまった。お互いに無言の時間が流れる。この空気一体どうすればいいんだ…。
変な手汗が出てきたせいで思ったようにデッサンを進めなくなってしまった。
「…ごめん、本当こんなつもりじゃなかったんだ。デッサン続けてよ」
「は、はい…」
手をタオルで拭いてデッサンに再度取り組もうとする。
晃星くんの姿を確認しようと思い目線を彼に向けた。
…その姿を見て私は再び筆をとめた。
彼の表情にはどこか影が宿り、私が描きたいと思っていた晃星くんがそこにはいなかった。
「晃星さん…」
「…ん?」
晃星さんはどこかぎこちない表情で私を見た。
「…私にもとても大切な人がいたみたいなんです」
「…え?」
「ちょっと訳あってその人の性別も名前も何一つ思い出せないんですけど…」
私は椅子から立ち上がり晃星くんの近くの椅子に座り直した。
「晃星さんの気持ちが全部わかるとは言えません。けれど、大切な人に会えない痛みは少しだけわかります」
…晃星さんは黙ってこちらを見ている。
今から私が彼に伝えることが果たして正しいのかわからない。もしかしたら間違いかもしれない。
「…もしよかったらその幼馴染の事、気が向いた時にでも良いので話してくれませんか?」
「…え?」
「あの、迷惑だったらごめんなさい。話すことでもしかしたら苦しくなることもあるかもしれません。だけど、その時の楽しかった思い出が蘇って、幸せな気持ちになれることもあると思うんです」
これは実体験があるから言えたことだ。結城先生との面会。
結城先生に覚えていること、思い出したことを話すたびに色んな感情と再会することができた。もちろんいい感情ばかりではなかったけど、私はこの時間を苦と思ったことはない。むしろ、好きな時間である。
…いや、自分が好きだからって晃星さんがそれを良しとするかは彼次第だけど…
「…あ、嫌だったらその無理せずにというか、強要するつもりはなくて…」
自分で言っておいてだんだんと自信がなくなってきた。
余計なこと言ってしまったかな…。
「…試しに今、してもいいか?」
「も、もちろん!」
「…どれを話そうかな…。そうだ…」
晃星さんは図鑑をパラパラめくるとある星空を指差した。私は立ち上がり図鑑を覗き見た。
「紗月はここにある星座が何かわかるか?」
「…星座?」
見開きのページいっぱいの星々、そこに私は3つ並ぶ一際明るい星を見つけた。
私はその星とそこから離れた四つの星をなぞるようにして砂時計のような形を描いた。
「知ってる。オリオン座ですよね?これ」
「へぇ、わかるんだ…まぁ、なぞるところが大分足りないけど、今紗月がなぞったのはオリオンの体の部分。腕と頭の部分が足りてないな」
そう言いながら私の足りていなかった部分を指で指して教えてくれた。
「このオリオン座の見つけ方を教えてくれたのが、その幼馴染だったんだ。冬の空に三つ並んだ明るい星。俺が天体オタクになるきっかけだ」
三つ並んだ星を指差しながら彼はふっと笑った。
「よかった。少し元気出ました?」
「…幼馴染のこと久々に話した。親が悲しそうな顔するからあまり話してこなかったんだ。少しだけど、うん、元気出たよありがとう」
「どういたしまして。そしたらデッサン再開しますかね!もしよかったら話続けてくれて構いませんよ!」
私は大きくのびをした。
ふと、晃星さんと目があった。
「それにしても、本当に晃星さんは綺麗な顔してますね。特に鼻筋が…。こう、なぞりたくなります」
私はゆびで鼻をなぞる仕草をした。
まつ毛も長いし、本当羨ましい限りだ。
「…それは、描いた絵で思う存分やってくれ…あと、近くね?」
「あ…ご、ごめんなさい」
思ったより距離が近かったのに気がついて一歩後ろに下がった。
晃星さんの顔に魅了されて近づきすぎてしまった。
そして晃星さんは少し困った顔をして笑いながら言った。
「あと、ずっと前から"晃星さん"に戻ってるよ」
そんな彼の顔はほんのり赤くなっていて、
思わず胸がキュンとした。
「あ…"晃星くん"…ですね。し、失礼しました」
…顔がいいって罪だな。不覚にもときめいてしまった。
そしてすぐにルナちゃんの顔が浮かんだ。
「さ、さぁ気を取り直してスケッチ頑張りましょー!」
私は「おー!」大きく拳を振り上げた。
その時だった。私のスマホから着信音がしたのは。
「ごめんなさい、電話が…」
着信名を確認して、私は思わず日付を確認する。しまった…今日は…。
「…晃星くん。本当にごめんなさい。今日はここまででもいいですか?行かなきゃいけないところがありました…」
私は慌てて荷物をまとめる。
「え、あ、全然いいよ。ちなみに…どうしたの?」
「…病院に行くのすっかり忘れていました…」
私のスマホはなり続けている。
着信名は…"結城先生"
「…」
なんだか気まずくなってしまった。お互いに無言の時間が流れる。この空気一体どうすればいいんだ…。
変な手汗が出てきたせいで思ったようにデッサンを進めなくなってしまった。
「…ごめん、本当こんなつもりじゃなかったんだ。デッサン続けてよ」
「は、はい…」
手をタオルで拭いてデッサンに再度取り組もうとする。
晃星くんの姿を確認しようと思い目線を彼に向けた。
…その姿を見て私は再び筆をとめた。
彼の表情にはどこか影が宿り、私が描きたいと思っていた晃星くんがそこにはいなかった。
「晃星さん…」
「…ん?」
晃星さんはどこかぎこちない表情で私を見た。
「…私にもとても大切な人がいたみたいなんです」
「…え?」
「ちょっと訳あってその人の性別も名前も何一つ思い出せないんですけど…」
私は椅子から立ち上がり晃星くんの近くの椅子に座り直した。
「晃星さんの気持ちが全部わかるとは言えません。けれど、大切な人に会えない痛みは少しだけわかります」
…晃星さんは黙ってこちらを見ている。
今から私が彼に伝えることが果たして正しいのかわからない。もしかしたら間違いかもしれない。
「…もしよかったらその幼馴染の事、気が向いた時にでも良いので話してくれませんか?」
「…え?」
「あの、迷惑だったらごめんなさい。話すことでもしかしたら苦しくなることもあるかもしれません。だけど、その時の楽しかった思い出が蘇って、幸せな気持ちになれることもあると思うんです」
これは実体験があるから言えたことだ。結城先生との面会。
結城先生に覚えていること、思い出したことを話すたびに色んな感情と再会することができた。もちろんいい感情ばかりではなかったけど、私はこの時間を苦と思ったことはない。むしろ、好きな時間である。
…いや、自分が好きだからって晃星さんがそれを良しとするかは彼次第だけど…
「…あ、嫌だったらその無理せずにというか、強要するつもりはなくて…」
自分で言っておいてだんだんと自信がなくなってきた。
余計なこと言ってしまったかな…。
「…試しに今、してもいいか?」
「も、もちろん!」
「…どれを話そうかな…。そうだ…」
晃星さんは図鑑をパラパラめくるとある星空を指差した。私は立ち上がり図鑑を覗き見た。
「紗月はここにある星座が何かわかるか?」
「…星座?」
見開きのページいっぱいの星々、そこに私は3つ並ぶ一際明るい星を見つけた。
私はその星とそこから離れた四つの星をなぞるようにして砂時計のような形を描いた。
「知ってる。オリオン座ですよね?これ」
「へぇ、わかるんだ…まぁ、なぞるところが大分足りないけど、今紗月がなぞったのはオリオンの体の部分。腕と頭の部分が足りてないな」
そう言いながら私の足りていなかった部分を指で指して教えてくれた。
「このオリオン座の見つけ方を教えてくれたのが、その幼馴染だったんだ。冬の空に三つ並んだ明るい星。俺が天体オタクになるきっかけだ」
三つ並んだ星を指差しながら彼はふっと笑った。
「よかった。少し元気出ました?」
「…幼馴染のこと久々に話した。親が悲しそうな顔するからあまり話してこなかったんだ。少しだけど、うん、元気出たよありがとう」
「どういたしまして。そしたらデッサン再開しますかね!もしよかったら話続けてくれて構いませんよ!」
私は大きくのびをした。
ふと、晃星さんと目があった。
「それにしても、本当に晃星さんは綺麗な顔してますね。特に鼻筋が…。こう、なぞりたくなります」
私はゆびで鼻をなぞる仕草をした。
まつ毛も長いし、本当羨ましい限りだ。
「…それは、描いた絵で思う存分やってくれ…あと、近くね?」
「あ…ご、ごめんなさい」
思ったより距離が近かったのに気がついて一歩後ろに下がった。
晃星さんの顔に魅了されて近づきすぎてしまった。
そして晃星さんは少し困った顔をして笑いながら言った。
「あと、ずっと前から"晃星さん"に戻ってるよ」
そんな彼の顔はほんのり赤くなっていて、
思わず胸がキュンとした。
「あ…"晃星くん"…ですね。し、失礼しました」
…顔がいいって罪だな。不覚にもときめいてしまった。
そしてすぐにルナちゃんの顔が浮かんだ。
「さ、さぁ気を取り直してスケッチ頑張りましょー!」
私は「おー!」大きく拳を振り上げた。
その時だった。私のスマホから着信音がしたのは。
「ごめんなさい、電話が…」
着信名を確認して、私は思わず日付を確認する。しまった…今日は…。
「…晃星くん。本当にごめんなさい。今日はここまででもいいですか?行かなきゃいけないところがありました…」
私は慌てて荷物をまとめる。
「え、あ、全然いいよ。ちなみに…どうしたの?」
「…病院に行くのすっかり忘れていました…」
私のスマホはなり続けている。
着信名は…"結城先生"