君に会うために僕は

少女の話

【20××/03 二宮紗月 初対面 録音データ 担当:結城】


「こんにちは」

「お姉さん、だあれ?」

「初めまして、私は結城と言います。君は、自分の名前がわかるかな?」

「さ、つ、きって名前だって聞いたよ」

「そうだね。紗月ちゃん、これからいろいろ聞きたいことがあるんだけどいい?」

「うん、いいよ」

「まずは…苗字はなんていうの?」

「…みょうじ?」

「…上の名前っていえばわかるかい?」

「あ、にの、みや…。だから、にのみやさつき…」

「そうか。名前は全部漢字で書ける?この紙に書いてみて」

「えっと、ううんと…”みや”と"さ"だけ…書けない」

「なるほど、なるほど…。今、いくつかな?」

「わかんない…けど…もうすぐ4年生になるって聞いた」

「そうだね。紗月ちゃんは今9歳で春からは4年生になるんだよ」

「すごい、お姉さんだね」

「そうだね。お姉さんだ。そんな紗月ちゃんは何が好きなのかな?」

「すきなの?」

「そう好きなもの。なんでもいいよ。動物でも、食べ物でも、絵本でも」

「…」

「…わからないか…。OK。紗月ちゃん、お勉強は好き?」

「うん、このあいだかんごしさんとやったよ」

「なにをやったの」

「九九!さつき、ぜんぶ言えるんだよ!聞く?」

「…また今度にしようかな。ありがとう」

「どういたしまして!」

「…紗月ちゃん…君は今ここがどこか知ってる?」

「びょういんでしょ?おケガしてずっとねてたってかんごしさんが言ってた」

「そうだね。君はなんでケガをしたの?」

「車がドーンって当たったんだって。かんごしさんが言ってた」

「…そのことを君は覚えているかい?」

「…ううん」

「そうか…」

「ねぇ、君のパパとママはどの人?この写真に指で指して教えて」

「…この人とこの人」

「そうだね。何でパパとママだってわかったの?」

「おきたとき、すごいふたりともえーんってないてたの。あとね、さつきといっしょにいるしゃしんを見たの。さつきニコニコしてたよ」

「そうなんだね。仲良しそうだった?」

「うん」

「最後に…紗月ちゃん、お友達の名前教えてくれるかな」

「おともだち?」

「そう、仲良かった子の名前覚えてるかな?」

「お、ともだち」

「…?」

「あ」

「あ?」

「…あ、あ」

「…どうした?」

「ないの」

「紗月ちゃん?」

「ない!ないの!」

「ない?」

「おほしやまのやつがない!どこ?どこ?」

「紗月ちゃん!落ち着いて!お星様の何がないの?」

「もらったの!ねえ?どこ?おほしさま。なんで?なんで?なんで?なんで?」

「大丈夫だよ。落ち着いて…。私の目を見て…」

「…」

「いっぱい息吸おう。吸えるかな?ゆっくりだよ」

「…やくそく…したの…」

「何て、約束したの?」

「…ー」

プツンッ

【記載事項:患者が意識を失ったため記録はここまでとなっている】
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