君に会うために僕は
「二宮さん…二宮紗月さん!わかりますか?」

そうあれは、9歳の時。小学…3年生…かな。
気が付いたら病院にいた。外には満開を迎えた桜の木があった。私は事故に遭い、一か月半ほど眠っていたらしい。特に覚えているのは、顔をぐっしゃぐしゃにして号泣する両親の顔。けれど、実は目覚めたときここはどこで、目の前にいる大人が何者であるかがわからず恐怖にさいなまれていた。

逆行性健忘症。つまり、”記憶喪失”。
私は事故に遭う以前の記憶を失ってしまっていた。

今考えると、そんなドラマみたいなこと本当にあるんだ…って感じではあるが実際に起こってしまっているのだから受け止めざる終えない。

そこから私の記憶のリハビリは始まった。その時出会ったのが結城洋子先生。私の担当医だった。
しかし、私の症状はかなり重症らしくなかなか記憶を取り戻すことはできなかった。
両親のことでさえ、今でも思い出せていないことが多々あると思われる。

そこで先生が提案したのが、一度退院して今まで暮らしていた環境でもう一度過ごすというものだった。同じ環境で同じ時間を過ごせば少しずつではあるかもしれないが戻る可能性があると言っていた。けれど、結局それは今日に至るまですることができていない。

どうやら私たち一家は引っ越し途中だったそうだ。新居へ向かう車を運転中、飲酒運転をした車が突っ込んできて大惨事だったそう。私が座っていた後部座席側に突っ込まれたようであと少し速度が出ていて、突っ込まれた場所がずれていたら今ごろどうなっていたかわからなかったと看護師に教えられた。

つまり、目覚めたころはすでに両親は新居への引っ越しを済ませており、元居た場所で暮らすというのが難しくなっていた。
それならばと先生が提案したのは、よく行っていた場所、遊んでいた友人と会わせるというもの。引っ越し先といっても電車で二時間揺られればつく場所だ。そう難しいことではなかったはずだった。

それを止めたのは私の父親だった。

「無理やり思い出さなくてもいい。このままでいい。紗月が生きていればそれで…」

その一言で私の記憶のリハビリにはストップがかかってしまった。
父は私の気持ちなんてどうでもいいのだろうか。…私は…知りたいのに。
< 3 / 19 >

この作品をシェア

pagetop