君に会うために僕は
優斗先輩と別れて教室に戻る。
教室では友達作りが盛んに行われていた。
入学式後の醍醐味であるといっても過言ではないだろう。

私のクラスである1-Eは32人で男女比はきれいに半分ずつのクラスだ。
因みに一年生だけで12クラスほどある。

「私は…この席か…」

出席番号は21番だった。どうやら出席番号の前半が男子で後半が女子のようだ。

「あ、あの…?」

荷物を机の上に置くと前の席の女子が話しかけてきた。

「は、はじめまして!…東山ルナって言います。よろしく…ね」

「あ、二宮紗月と言います。こちらこそ、よろしく…。」

…小動物みたいな女の子だと思った。
ココア色のボブで、ちょこんとしていてかわいらしい。身長もそんなに高くはなさそうだ。

「えっと、紗月ちゃん…でいいかな。紗月ちゃんはもうLINEのグループとか入ってる?
 ルナは、入学前から作られてるの知らなくてついさっき入れてもらって…。」

「え、まだ入ってない。この学校に知り合いいないから教えてもらえると助かる!」

話しかけてくれる子がいて助かった。
残念ながら二時間かけてこの学校に通う人はおらず、友人関係に不安があった。

…優斗先輩がいたわ。まぁ、言わなくてもいいか。

「…"月"が入ってる」

「え?」

「あ、いや…LINEの名前が漢字で登録されてたから。”さつき”ってこういう字で書くんだなーって」

「ん、そうだね?…ルナ…ちゃんの”ルナ”ってどんな字書くの?」

「ルナの字はね、そのままカタカナで”ルナ”なんだ。お母さんがね、アニメが好きでそこから…」

「なるほど」

「でもね、中学校のころに『名前は漢字で書け』って先生がいて、カタカナが本名ですって言ってもだめで、そういう時は”ルナ”は漢字で”月”って書いてたよ」

「へー。変な先生がいるもんだね」

「…そうなんだけどね…。いいこともあったんだよ」

「…いいこと?」

「はーい!皆さん一旦席についてー!」

話が盛り上がっていた所で、クラスの担任と思われる人に遮られてしまった。
彼の掛け声とほぼ同時にチャイムも鳴る。

「またあとで」

ルナちゃんはこそっと言うと前を向いた。


ホームルーム自体は数分で終わった。

が、担任の自己紹介が長かった。

担任は若く元気のある人だ。最近子どもが生まれたらしく子どもが可愛いのなんのという話が長く続き、他の先生がしびれを切らして声をかけに来るほどだった。

担任はどうやら現代文が担当らしい。授業が子どもの話でつぶれてしまうこともありそうだなと思った。期待しておこう。


その後、講堂での入学式、部活動・委員会紹介と行事紹介、生徒会による学校案内と続き、あっという間に高校生活一日目が終了した。部活動の見学も明日からなので、多くの一年生は帰宅していった。

私も急いで帰り支度を整える。どうしても行きたい場所があった。

今日は学校に入学式に参加した両親が来ていた。一緒に帰ろうという誘いを断った代わりに、早い門限を言い渡されてしまった。

家に帰るまでに2時間かかる。門限までは残り3時間。行きたい場所までは…どのくらいかかるんだろう。

両親は多分入学祝いで何かサプライズを用意しているのだと思う。色々隠し事が多い両親ではあるが、愛されているということはなんとなく自覚している。今日はちゃんと帰ってあげよう。

準備が終わり、バックを持ち上げたところでルナちゃんに声をかけられた。

「紗月ちゃん!」

「あ!ルナちゃん?どうしたの?」

「なんか…急いでる感じかな…。その明日、放課後空いてたら一緒に部活動見学どうかなって思って。
 部活まだ決まってなかったらなんだけど…」

「明日は全然大丈夫!部活決まってもないし」

「よかった!急いでるのに、止めちゃってごめんね!」

「いや、こちらこそ!じゃあ、また明日ね」



本来であれば、新たにできた友達とご飯でも食べに行くのが当たり前なんだろうけど。

どうしても、どうしても、今日、行きたかった。

やっとこの場所に来ることができたのだから。
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