君に会うために僕は

第二章

昨日は危うく門限までに家に帰れないところだった。
ギリギリに家に着くと玄関でよそ行きの服を着た両親が待っていた。

やはり入学祝いとしてレストランの予約をしていた。サプライズにしなくてもバレバレなのだけれど。
私の好きなデザートが出てくるコース料理のお店。私のお祝い事はいつもここでしてくれる。



「…学校1日目はどうだった?楽しかったか?それと、なんか変わったことはあったか?」

料理も終盤に差し掛かり、あとはデザート…というところでお父さんからそう聞かれた。

「別に…まだ1日目だし。あ、優斗先ぱ…優斗さんから入学祝いもらった。普段使いできないような高いネックレス。それから、前の席の子と仲良くなれそう。あとは、じど…」

慌てて口を噤む。危うく児童館に行ったことを言うところだった。私が記憶を自力で取り戻そうとしていることがばれた暁には、お父さんの過保護が増すことなんて明白だ。下手したら部活動も禁止と言いかねない。

「じど…?」

「いや…なんでもない」

口の中が異様に乾いて、水の飲んだ。

「まぁ、ともかく優斗くんと仲良くしているのであればよかった。遠くの学校に行くことで友人関係も心配していたんだが…これからもその子と仲良くしてもらうんだよ」

「…はい…」

「あのお母さんも聞きたいことあるんだけど、いいかな」

「何?」

お母さんがナプキンで口をふき、まっすぐこちらを向いた。
お母さんは昔から鋭い所がある。さすが母親といった感じではあるが、今回のことはバレるわけにはいかない。学校生活は三年間もあるのにこんなすぐに失敗してしまったらこの学校に来た意味もなくなってしまう。

思わず唾を飲んだ。

「…今日は、頭痛いとか動悸がするとかはなかった?」

「え?」

思惑がばれていないようでよかった。私はほっと胸をなでおろす。
お母さんが話を続けた。

「事故に遭う前よく星和高校の周りには遊びに行っていたりしたから、急に何かを思い出したりして体調が悪くなることがあるかもしれないと思って…。何度も言っているけど、あなたは事故での衝撃がかなり負担になっているの。だから、無理はしないで、学校生活を送ってね」

「…うん」

「何かあったらすぐに迎えに行くからね」

「うん、ありがとう。今日は…なんとも、何ともなかったよ。心配かけてごめん」

…嘘もついてごめんね。

少しだけ胸が締め付けられた。

けれど、お母さんもお母さんで過保護だ。お父さんほどではないけれど、今でも私の身体の心配をしてくれる。たしかに記憶障害はあるけれど、たったの1か月半目覚めなかっただけなのに…。それにこの事故がきっかけで体調が悪くなったことなんて最初くらいだった。ここ5年くらいはピンピンしている。今日だって少し動悸はしたけど元気だ。

「…二人とも本当にいつも心配しすぎだなぁ。全然大丈夫だよ」

私が大げさに笑っても二人が笑い返すことはない。それだけ心配をしてくれているのだ。

だけど、ごめんね。
私は、”私”に会いたいよ。…必ず会うから…。

二人には絶対迷惑かけないから。

いつか、全部を思い出した時、怒られちゃうかもしれないね。

だけど、最終的には、

一緒に笑って喜んでくれたらうれしいなぁ。



「失礼いたします。デザートをお持ちしました」

ウェイターさんが私の目の前にデザートが運んでくれた。
私の大好きなレモンタルトだ。甘酸っぱい匂いが私の鼻をくすぐる。

いつも通りフォークで一口サイズにし口に運ぶ。

「いただきます」

レモンさわやかな酸味が口いっぱいに広がる。
いつもの大好きなレモンタルトの味だ。

だけどなぜだろう。

今日は、少しだけ苦くも感じた。
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