君に会うために僕は
「おはよう、紗月ちゃん」

朝、昇降口で声をかけられ振り向くとルナちゃんがいた。
今日も相も変わらずほわほわしていて可愛い。

「おはよう!…あれ、もしかして同じバス乗ってた?」

星和高校は駅からバスが出ている。多くの学生はこのバスを利用して通学している。私もその利用者の一人だ。

「ううん、私は自転車で来ているんだ。歩くにはちょっと遠いけど自転車なら20分くらいで来れるよ」

ルナちゃんは指に着けた自転車のカギをクルっと回した。

「へーじゃあ家近いんだ。私は電車で二時間だからさ…遠くって」

「大変だね…」

「まぁ、自分で選んだ高校だからね…。これから三年間頑張って通うよ」


靴を履き替え、教室へと向かう。
階段で3階を通った時、優斗先輩とあってしまわないか不安だったが無事に通り過ぎた。

…と思っていた。

「…な…」

「ん、どうしたの?紗月ちゃん」

「おはよう!紗月」

「ゆ、優斗先輩!?な、なんで朝からこんなところに」

1年E組の教室の前に何故か優斗先輩がいた。

星和高校は上履きが学年ごとに色が違う。私たち1年生は赤、2年生は青、3年生はたしか…緑色だったはず。部活動も始まっていないこの時期に先輩と交流がある1年生はそういないだろう。そのため、一人一年生の教室の前で張っている青い上履きを履いた優斗先輩は変に目立っていた。

「いや、やっと紗月と同じ学校に通えるようになったからね。会いに来たんだよ。教室覗いたらいないし、クラスの子に確認してもまだ来てない感じだったから待ってたんだ」

…本当に、この人は…。

優斗先輩の腕を引っ張り階段のほうへ連れていく。教室の前で話すよりまだこちらのほうが目立たないだろう。2日目から悪目立ちなんてしたくない。さっさと教室に戻ってもらわないと。

「あの、朝から来られても困ります。今日も放課後はちょっと空いてないですし、部活動も始める予定なんでいつ悪かわかりませんけど、昨日の話の埋め合わせはいつかしますから。今もちょっと忙しいので、教室戻ってください」

「そうか、じゃあ今日はお昼を一緒に食べるのはどう?学食おごるよ。話したいことがあるんだ。あ、そこの君も一緒にどう?入学祝にご馳走してあげるよ。名前は?」

後ろを振り向くと廊下の壁からルナちゃんが覗いていた。突然話しかけられたことで動揺したのか一瞬固まっていたが、周りを見渡して話しかけられたのが自分であると気付く2,3歩こちらへ近づいてきた。

「え、あ、と、東山ルナ…です。ご、ご馳走…してくださるんですか?」

ルナちゃんはもしかしたら食いしん坊なのかもしれない。キラキラと目を輝かせている。
なんだか小動物みたいでかわいい。…これは、もう断れない。

「はじめまして、ルナさん。僕は山之内優斗。紗月の幼馴染なんだ。2年A組にいるから困ったことがあったら声をかけてね。それじゃあ、忙しいみたいだからこれで。お昼休みに食堂で待ってるよ」

「はい!山之内…先輩、ありがとうございます」

ルナちゃんがペコッとお辞儀をする。
それを見てうれしそうに階段を降りていった。

…朝からどっと疲れてしまった。

「はぁ…なんかごめんね。付き合ってもらうことになっちゃって。びっくりしたでしょ」

そう聞くとルナちゃんは首を横に振った。

「全然大丈夫だよ。なんというか…スピード感のある人だね。でも赤の他人の私にまでご馳走してくれるなんていい人…。実は学食、気になってたからすごい嬉しい。お弁当持ってこないでよかった」

「…あの人の家はお金持ちでね、優しくて人懐っこい人だから、他人へお金を使うことにあまり躊躇しないの。むしろ人を喜ばせるのがすごく好きだから、ルナちゃんが喜んでるから優斗先輩もうれしいんじゃないかな」

いつかその優しさが裏目に出て、だまされたりしないといいんだけど…。

「すごい人だね…。あ、もしかして…紗月ちゃんの彼氏さん?」

「ううん。全然違う。できればあの人とは…幼馴染のままでいたいの」

「…できれば…?」

優しい人だからうまく突き返すことが毎回できない。
なぜ優斗先輩はこんなにも私に関わってくるのだろう。…まさか、私に好意があるわけでもあるまいし。


え、…ない…よね?
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