彼女が恋をしたのは。

突然

葵は育児休暇の申請をして、毎日家事をする。

俺が会社から帰ると、

リビングで脚立に登っている葵の姿が

玄関から見えた。

「あっ。危ないよ!葵。」

「大丈夫。大丈夫。アルバム懐かしくて〜」

「ついつい、アルバム見たくなっちゃうん

ですよね、駿しゅんさんの子供の頃〜。」

と、その瞬間足が滑って葵が転んでフロアに

倒れてしまったのだ。

「痛いっ。お腹。赤ちゃん大丈夫かなぁ。」

と葵がお腹の子をさすると、

「無理はするなよ。だから、危ないって

言ったじゃないか。」

とお腹の子を心配すると、

タクシーの運転手に、

「急いで下さい!」

と、緊急病院へ急いだ。

葵はタンカに、乗せられて酸素マスクを付けて

脈を、測る。12:02を回った

今、83bpm。

「葵、しっかり!大丈夫か!」

と必死に駿しゅんが、声を掛ける。

葵は、苦しそうにお腹に手をあてる。

待合室で、20分程。

「ご主人。ちょっと。」

と主治医に呼ばれると、 



「流産です。稽留流産。残念でしたが、、、。」



と、俺は空白の5分が、こんなに辛いものだとは

思わなかったのだ。

葵とはじめて味わう、苦しさだ。

病室には、目をそっと開けた葵の姿が、

そこにあった。

「あっ。駿しゅん君。」

と無理して起き上がろうとするから、

「あっ、葵、安静にしてな。」

とまた横になった。

俺は何て言って良いか正直、分からなかった。

言葉を選んだ。

「あのっ、、。」

と俺が言いかけると、

葵はそっと、

「流産なんでしょ。だってあんなに、

破水してたもん。」

とポロポロと葵は泣いた。

俺は涙で目の前が滲んだ。拳をギュッと

握りしめた。

そして、葵にそっと寄り添って、葵の両手の上に

両手を重ねた。そっと。優しく。

「葵。俺お前のこと、一生大事にするからな。

ううっ。」

と、普段涙を葵の前では、絶対見せない

駿しゅんさんが、泣いていた。

皮肉にも、見上げた空は、青かった。

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